「負債総額は37億円」…『極悪女王』で話題の「全女」を作った“松永一族”の栄枯盛衰を振り返る 社長の自死に元リングアナ「言葉にならなかった」
「スッカラカンの会社が倒産して朝日新聞に出るんだって」
「その日」のことについて、広報担当者として会見にも出席した今井氏はこう語っていた。 「朝日新聞の社会面に、“全女倒産”って出ていたんですね。上場企業でも何でもない、スッカラカンの会社が倒産して朝日新聞に出るんだって。僕のいた会社って、もしかしたらすごい会社だったのかって思いましたよ」 倒産後の全女は、団体に残った10人あまりの選手たちを中心に、現金取引で細々と興行を続けた。2000年にはつんくプロデュースによるユニット「キッスの世界」(高橋奈苗、納見佳容、脇沢美穂、中西百重)を誕生させたが、それは団体の「最後の花火」となった。 いよいよ限界を迎えたのは、フジテレビが女子プロレスの地上波中継から撤退したことがきっかけだった。 「倒産後も『格闘女神ATHENA』という番組名で、月1回、地上波放送がありました。深夜かつ関東ローカルとはいえ、まだネット中継がなかった時代、やはり地上波は放映権料も影響力もCSとは比べ物にならないほど大きかった。この命綱とも言える番組が2002年に打ち切りとなり、とどめを刺されたという感じでしたね」(今井氏) フジテレビの中継が終了した後、全女は本当に日銭だけが頼りの自転車操業状態に突入する。だが、最後は税金滞納を看過しなかった国税によって、プレイガイドからの入金が差し押さえられ、万策尽きた。
2005年4月、全女の歴史に終止符…負債総額は37億円
2005年4月17日の後楽園ホール大会をもって、全女は37年の歴史に終止符を打った。 当日、松永高司会長は体調不良で会場に姿を見せなかったが、副会長の松永健司氏(次男)と社長をつとめていた国松氏(四男)がリングに上がり、団体の終焉をファンに土下座して詫びた。最終的な負債額は、全女が刻んだ年数に1億円をかけた37億円だった。 失意の国松氏が東京・品川区のビル7階から飛び降り自殺したのは、その4カ月後のことである。女子プロレスに捧げた63年の人生だった。 「もう言葉にならなかったですよ。クラッシュの2人をはじめ、選手たちから“国マネージャー”と慕われていた国松さんは、何かと人間関係が難しい女子プロレス団体の潤滑油ともいえる存在でした。団体解散後も『今井に戻ってきてもらえないか』と言っていると、人づてに聞いてはいたのですが、いつでも会えると思って連絡していなかった。そのことについては後悔しています」(今井氏) 全女の終焉から4年後の2009年、全盛期に社長をつとめた松永高司氏は73歳で世を去った。団体の経営にかかわった松永兄弟の4人、そしてフロントの今井良晴氏は2020年までにみな鬼籍に入っている。 泉下の人となった松永高司氏はいま、令和の日本で『極悪女王』が大きな話題を集める現象を、誇らしい気持ちで見守っていることだろう。「家族よりも選手が大事」と公言していた高司氏にとって、団体の功労者でもあるダンプ松本はある意味、実の娘以上にかわいい存在だったはずである。 1980年代の全女には、マッハ文朱やビューティ・ペアに強く憧れ、脇目も振らず女子プロレスの世界に身を投じた少女たちの群像があった。 3禁という名の求道精神と、25歳までという年齢制限に支配されたリング上には凝縮された情念が渦巻き、「星」を拾った数少ない選手たちは、あらゆる抑圧を反動に変える最高の輝きを見せた。 黄金の80年代を演出した全女だが、闘う女たちの魅力を最大化させた「舞台装置」はいつしか消滅し、物語はやがて伝説となった。稀代のヒール、ダンプ松本の生きざまを描いた『極悪女王』のヒットは、女子プロレスのリングに時代の精神性を映し出した、松永高司氏の「異才」を雄弁に物語っていると言えよう。
(「格闘技PRESS」欠端大林 = 文)
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