ピッチャーの特徴を取り入れた投球ロボット 早稲田大学で開発中
映画でヒューマノイドロボットに興味がわく
福田さんの大学選びは「ロボットづくりを学びたい」というところから始まりました。 「子どものころから機械やものづくりが好きで、ヒューマノイドロボット(人型ロボット)に興味がありました。『スター・ウォーズ』や『トランスフォーマー』などの映画ばかり見ていた影響かもしれません。早稲田大学の総合機械工学科は、受動的に学ぶ座学だけではなく、実践的な授業もある点に魅力を感じていました。さらに調べていくと、早稲田大学にはヒューマノイド研究の世界的な第一人者である加藤一郎先生の研究室があったということがわかりました。加藤先生の研究が高西淳夫先生の研究室で受け継がれていることを知り、ぜひこの研究室で学びたいと早稲田大学を受験しました」 入学後は主に「4力」と呼ばれる材料力学、流体力学、熱力学、機械力学を座学で学んだほか、実践的な授業ではものづくりに取り組みました。 「旋盤やフライス盤といった金属を精密に切削することができる装置を使って機械工作を行う授業や、マイコン(マイクロコンピューター)を使って電子工作を行う授業などがありました。特に印象に残っているのが、1年次後期のメカトロニクスラボAという授業です。この授業の中では、1人で1つの『誰かの役に立つ』ロボット・システムを提案し、製作する、という課題がありました。僕が作ったのは、勉強に集中したいときなどに一定時間スマホにロックをかけられるデバイスです。市販品にはない機能も追加しました。入学してから学んできたプログラミングや電気回路の知識を生かして、試行錯誤をしながら初めて実装に挑戦したので、完成したときには達成感がありました」
ロボット開発で人間を知る
高西研究室では、投球ヒューマノイドロボットのほか、走行、楽器演奏、情動表出などのヒューマノイドロボット、その応用としての手術トレーニング用のロボットや、農業支援ロボットなど幅広いタイプのロボットを研究・開発しています。学生はこれらの中から、研究したいロボットを選択します。高西教授は次のように話します。 「ロボット研究は研究室だけで完結することはなく、ほとんどがほかの分野の専門家とのチームプレーです。スポーツ科学や心理学の専門家、農業に携わる方、外科医などの協力のもと、研究を進めます」 「ヒューマノイドを作ることで人間のことがわかる」と高西教授が話すように、福田さんも人間の骨格や筋肉のつき方などを勉強しながら投球ヒューマノイドロボットを研究しています。 「人間は、大きさや体重の割に、瞬発的に動いたり、強い力を出したりすることができます。例えば、ピッチャーは筋肉や腱のもつ弾性をうまく利用して、素早く腕を回転させることで投球を行っています。この弾性をロボットにも再現することで、人間のような投球動作を実現しています。ただ、人間の身体特性を再現しつつ、人間並み、あるいはそれ以上の投球能力を実現することは簡単ではなく、そのための方法を探求していくことが面白い点です」 研究室での活動は、ロボット製作だけではなく、研究内容を発表する機会も頻繁にあり、研究室内での報告会は月に1回あります。さらに、共同研究先や企業、研究所の人たちも集まる発表会が年に3回開催されます。 「専門家からは厳しい質問をされることもあります。この経験によって、卒業発表は余裕をもって臨むことができます」(高西教授) 福田さんは学部卒業後は大学院に進んで投球ヒューマノイドロボットの研究を続け、将来的には「社会の役に立つようなロボットやシステムづくり」を目指しているそうです。 高西研究室では、8~9割が大学院に進み、修了後は多くがメーカーの開発職に就きます。 「いまの家電製品のほとんどは、ロボットのシステムが導入されています。大学でのロボット開発の知識や技術は、幅広い分野で生かすことができるのです」(高西教授) 大学でロボットを学ぶことが珍しくなくなっている今、具体的にどんなロボットを研究したいのかというところまでイメージできていると、行きたい大学、学部・学科、研究室が見えてきそうです。
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