クリスマスケーキでも定番! 日本にしかない“洋菓子”の代表「ショートケーキ」の誕生の謎
クリスマスや誕生日のケーキの定番、ショートケーキ。ところが、伝統的に「洋菓子の定番」として慣れ親しまれているショートケーキと同じものは、日本以外には存在しないと、パティシエの吉田菊次郎は指摘する。 【画像】ショートケーキを作ったと言われる人物 その発祥も、名前の語源も、複数の説があるようだ。それらを詳しく見ていくと、日本がどのようにして外国文化を作り変え、独自のものにしていったかを知ることができる。 ※本記事は『万国お菓子物語 世界をめぐる101話』(講談社学術文庫)からの抜粋です。
ショートケーキはどこから? フランス発祥説
日本における洋菓子の代表はなんといってもいちごをのせたショートケーキだろう。どこにもありそうでいて、世界のどの国にも見当たらない。思えば不思議なお菓子である。 ではこれはいつ頃生まれ、いかなるプロセスをもって完成され広まったのか。 このお菓子の組み立てはスポンジケーキと生クリームといちごである。このうちのスポンジケーキについては南蛮菓子カステーラとして伝わって久しい。またいちごも、江戸末期にはオランダ人によって今様のものが伝えられていた。問題は生クリームである。幕末から明治初期にかけて牧場はすでに開かれていたから、牛乳の濃厚な上澄み、すなわち生クリームは、ほんの少しではあるが手に入ることは入っていた。ただ、お菓子に使うほど潤沢な量は望めなかったはず。 こんな時代がしばらく続き、大正十三(1924)年頃、アメリカのデラバル社製の遠心分離式生クリーム製造機が輸入された。ちょうどその頃フランスより、リアルタイムの情報を持って一人の製菓人が帰ってくる。コロンバンというフランス菓子屋を開いた門倉國輝である。そして彼の手によって昭和十一年(一説には六年)、ショートケーキの名で、そのお菓子が売られたという。 おそらく彼は初めのうちはフランスで習得してきたセオリーにしたがって製品を手がけていたと思われる。が、そのままでは日本人の口に合いにくいと試行錯誤をくり返すうちに、さまざまにアレンジが行われ、彼あるいはその周辺の手によって、フランス菓子にはあまり見られないスポンジケーキと生クリームの組み合わせもなされ、日本人が美味と感じる柔らかくしっとりとしたケーキが誕生した。飾りに適当な大きさのフルーツなどがのせられ、いつしか彩りも良く形もかわいく、クリームとマッチする、ほどよい酸味を持ついちごに落ち着いていった……。 こうして今日いうところのショートケーキの原形ができ上がったようだ。時はいつとは断定しかねるが、昭和の初め頃から十一年のいくらか手前頃までの間ということができようか。