クリスマスケーキでも定番! 日本にしかない“洋菓子”の代表「ショートケーキ」の誕生の謎
ショートケーキはどこから? 米国発祥説
ところで、フランス菓子から入っていった門倉國輝周辺説もさりながら、もうひとつの有力な候補者がいる。藤井林右衛門率いる不二家説である。 多くのお菓子屋がフランス指向を強めていく中、同店ほどアメリカ研究に勤しんできたお菓子屋もない。実はそのアメリカにストロベリーショートケイクというお菓子があるのだ。厚めのビスケット生地を二枚に切り、一枚の上に泡立てた生クリームといちごをのせ、もう一枚のビスケット生地を重ねて、またその上に泡立てた生クリームといちごをのせて作る。 藤井氏はこれに目を付けて導入。ただしそこに少しばかりアレンジを加えた。日本人は口当たりの柔らかいものを好むとして、ベースになっているビスケット生地をスポンジケーキに置き換えてみたのだ。こうしてできたのが日本風のショートケーキではなかろうか。 ちなみに現在売られている同社の丸いショートケーキを見てみると、その辺りが何となく分かってくる。他店のものは表面すべてを覆っているので分かりにくいが、不二家のものは側面にはクリームを塗っていない。よって脇からはスポンジケーキとクリームの段重ねがそのまま見て取れる。あのスポンジケーキをビスケット生地に置き換えれば、アメリカにある元の姿のストロベリーショートケイクが見えてくる。 先のフランスから入ったコロンバン説もしくはアメリカからの不二家説、何れが日本のショートケーキの生みの親なのか。さまざまな状況から推すと不二家説に分があるように思えるが、さて……。
名前の謎
次にショートケーキという呼称の由来について探ってみよう。 ショートとは本来「サクサクした」という意味の語で、決して「短い、小さい」というわけではない。したがってショートケーキとはあくまでもクッキー状のお菓子を指す。現に英語圏におもむいてショートケイクとオーダーすれば、クッキーやビスケットの形態のお菓子が供される。 遡ること明治二十二(1889)年の文献『和洋菓子製法独案内』にてもすでにScotch short bread cakesやDerby short cakes(スコツトランドシヨルドプレツケーキ、デルビーシヨルドケーキ・原文のまま)なるものが紹介され、ちゃんとクッキーの作り方が記されている。すなわち生地をまとめて一寸(約三センチ)程に延ばし、型で抜いて焼く……というように。 それではこの呼び名がどうしてスポンジ使用のクリーム菓子に置き換わったのか。そこで不二家説に戻るのだが、藤井氏がサクサクしたという意味のショートケイクという名称はそのままに、ビスケット生地をスポンジ生地に置き換えて作った、その名残りではないか。これは筆者の推量だが。