「葉を触れば栄養がわかる」長野・佐久穂町「のらくら農場」がたどり着いた「面白い農業」の作り方
---------- 農業離れが叫ばれて久しい現代、農業従事者不足は機械化によって解決するという向きも多い。実際にドローンやAIを駆使した農業が導入され、効果を発揮しはじめているが、翻って農作業は「不要な仕事」なのかという問いが浮かぶ。ゆくゆくは人の身体の一部になる野菜の質や価値は、人の手によって「楽しく高める」ことはできないのか。 「のらくら農場」の代表・萩原紀行さんは、会社勤めから就農し、98年に長野県・佐久穂町で現在の農場を開いた。四半世紀にわたり有機栽培を突き詰めていく中で、多くの若者が参加する「チーム経営」を実践している。価格と品質、生産性と労働力がトレードオフにならない野菜作りで、19年「オーガニック・エコフェスタ」で開催される栄養価コンテスト(一般社団法人日本有機農業普及協会主催)では3部門で最優秀賞を獲得し、総合グランプリを受賞。2020年はケール部門で二連覇を果たした。従来のイメージを覆すシステムはどのようにして生まれたのか(文中括弧内はすべて萩原さん)。 ---------- 【写真】棒がすっぽり…のらくら農場で見たすごい光景
土の栄養素を知る
のらりくらり、野良で暮らそうーーそんな意味を込めて名付けられた長野県・佐久穂町「のらくら農場」。前記事〈「農作業は「不要な仕事」なのか? 「キレるの禁止」な農場代表が「軽自動車を買って気づいたこと」〉では、労力と生産量のミスマッチが生まれがちな有機栽培を、スタッフみんなで自走的に考え、共に解決していくという、同農場のイノベーティブな理念についてお伝えした。 明確な定義はないが、一般的に「有機栽培」というと、化学肥料や化学合成農薬を極力使用しない(もしくはまったく使用しない)農法、とイメージされるだろう。安全性はもちろん、慣行農法に比べて野菜の個性を活かすことができるのがメリットと言えるが、化学合成農薬などを使用しないぶん、萩原さん曰く「成功のストライクゾーンが狭い」のだそうだ。 ではどうするか。有機栽培は、すべての「科学」を否定、無視することではない。現にのらくら農場では、土壌分析、そして作物の生育診断を重ね、どのような野菜を作るかを決めている。 土壌分析とは、土の成分を抽出し、窒素やマグネシウム、マンガンなどのミネラルが含まれる割合を確認することだ。試験管で試薬の反応の変化を見るーー。その姿だけを切り取れば、農家というよりも化学者に近い。 葉物野菜の葉や茎の生育の鍵を握る窒素をはじめ、重要なのは土の栄養素のバランスだという。どれかに過不足があれば、生育障害や虫害が発生する可能性が出てくる。萩原さんは言う。 「この佐久穂の土地で農業をやると決めた時、土の状態は最初からベストというわけではありまませんでした。何が必要なのかもわからないまま、いろいろな人の助言を得て、少しづつ改良していったんです。そうだ、これ、土に挿してみてください。ここらへんを持って、ぐっと」 萩原さんは、筆者に緑色の園芸支柱を委ねた。人間の背丈ほどはある支柱を、春菊が生え茂る畑の土に挿して力をこめると、スルスルと半分以上入っていく。青々とした作物が並ぶ表面からは想像もつかない、ふかふかで許容力の広い畝が足下に広がっていたのだ。