’24政治決戦(4)石破首相の「アジア版NATO」は暴論か
宮城 大蔵
北米と欧州、中東の32カ国で作る軍事同盟「北大西洋条約機構(NATO)」。そのアジア版を、という石破茂首相の持論は、左派からも右派からも相手にされずに尻すぼみ気味だが、米国の対外関与縮小という大きな流れを踏まえれば、議論の糸口にはなり得る。
不評の構想、不安定化する政権
石破首相が自民党総裁選で掲げた「アジア版NATO」構想が不評である。日米やアジアの外交・安全保障専門家は押しなべて否定的で、インドのジャイシャンカル外相は10月1日、「我々はそのような戦略的な構造は考えていない」と言明した。 そもそも今回の総選挙で自民・公明は過半数を割り、11月上旬の特別国会で石破氏が首相に再選されるのかも確実ではない。このような中で「アジア版NATO」は一時のあだ花として消えていくのだろうか。 ここで11月5日に行われるアメリカ大統領選挙を視野に入れてみると、違った景色が見えてくる。大接戦の大統領選挙は、最終盤でハリス候補の失速も伝えられるが、どの調査もトランプ候補との開きは誤差の範囲ということだ。ハリス氏当選の場合はバイデン政権の政策が継続されることになろうが、トランプ氏の再登場となった場合はどうか。アメリカのNATO脱退すら口にしたトランプ氏である。 日米、日韓といった北東アジアの同盟関係も、場合によってはディールを重んじる「カネ次第」となりかねない。もし再選後のトランプ氏が日本や韓国に対する防衛義務を真摯(しんし)に履行する構えを見せない場合、日韓は核武装に走ると予想する英語有力誌もある。韓国では2016年頃まで核武装論議はタブー視されていたが、今では世論調査で6割以上が核保有に賛意を示すという。 トランプ氏は突飛な存在に見えるが、アメリカが軍事的な対外関与に消極的になる傾向はトランプ以前からのもので、今後その趨勢(すうせい)が逆転することは考えづらい。このため、アジアにおける安全保障面での多国間枠組みの議論があってもいいのではないか。筆者はそのような観点から石破首相の提起にも一定の意味を見出している。