’24政治決戦(4)石破首相の「アジア版NATO」は暴論か
石破氏の真意はどこに?
ただし、引っかかるのは、「アジア版NATO」の意図することが今一つ分からないことだ。今回、石破構想が波紋を広げたきっかけは、米ハドソン研究所への寄稿(9月24日掲載)だが、そこでは「今日のウクライナは明日のアジア」だとして、台湾有事を念頭に対中抑止の必要性を強調している。 一方で石破氏は、毎日新聞OBの倉重篤郎氏を聞き手とした近刊(『保守政治家』2024年8月刊行)での主張は異なる。「『今日のウクライナは明日の日本だ』とか、『台湾有事が急迫している』とかいう議論も目立つようになりました。しかしそうであればこそ、ロシアや中国との外交関係を絶やさない努力が、一方で重要だということを、強調すべきだと思います」と語り、「アジア版NATO」構想はほぼ見当たらない。 さらに「中国脅威論ばかりが日本国内で幅を利かせるようになると、(中国の)全体像をとらえたバランスのある議論ができなくなります」と、筆者からすればもっともな正論を述べた上で、「自民党でも錚々(そうそう)たる方々が(日中)両国間のパイプ役をつとめておられました。今は逆に、真面目に日中関係を前に進めようとする政治家を『媚中派』などレッテル貼りし、攻撃するような一部世論すら存在しています」と、世論の視野が狭くなることを憂えている。 対中抑止を前面に掲げた「アジア版NATO」と、いたずらに中国脅威論をあおるのをたしなめる言動と、どちらも石破氏の真意なのかもしれないが、並べてみるとまったく別人が話しているかのようである。 同時に気になるのは、過剰な対中対決姿勢をいさめる石破氏の言葉が、安倍晋三氏や岸田文雄氏らへの批判として語られていることである。自民党内での「党内野党」として国民的人気を保ち、それゆえに今回、自民党総裁から首相へという宿願を果たした石破氏だが、その場、その場で時々の首相=自民党総裁を諭すような「一言居士」のスタンスは、今後は取り得ない。これまで示してきた識見に現在の最高権力者としてどこまで責任を負うのかが問われる。