秋吉敏子が95歳の今語る『孤軍』の音楽人生、ジャズと日本人としてのアイデンティティ
世界的ジャズピアニスト/作編曲家/ビッグバンドリーダー、秋吉敏子のデビュー・アルバム『孤軍』が発売50周年を記念して12月25日にアナログ盤で再発された。同日には『孤軍』を含む秋吉敏子=ルー・タバキン・ビッグ・バンドの初期代表作7タイトルのストリーミングも解禁された。そんな秋吉への最新インタビューが実現。聞き手はジャズ評論家・柳樂光隆。 【画像を見る】秋吉敏子、70年代と現在の貴重写真 ここ数年、日本のジャズが世界的に人気だ。「和ジャズ=Wa Jazz」と呼ばれ、レコード・コレクターの間でブームのようになっている。海外のレーベルが次々と希少なレコードをリイシューするようになり、いまや海外レーベルのリコメンドにより知ったレコードを日本人が買うような流れもある。福井良や稲垣次郎、鈴木弘、松風紘一などは日本よりも海外での知名度のほうが高いと思われるほど。そんな状況もあり、日本のジャズ作品がようやくストリーミングでも聴けるようになり始めてきた。 とはいえ、日本のジャズを聴く環境はまだまだ整っていない。なぜなら重要人物たちの音源がいまだ聴けない状況だからだ。特に秋吉敏子、渡辺貞夫、日野皓正の名盤を聴くことができないことは大きな損失だった。 そんななか、ついにソニーミュージックが動いた。秋吉敏子が70年代に結成した秋吉敏子=ルー・タバキン・ビッグ・バンドによる名盤7タイトルのストリーミングを開始する。ピアニストとしてNYを拠点に活動していた秋吉がLAに移り、パートナーでもあったルー・タバキンと共にビッグバンドを立ち上げ、作曲家:秋吉敏子を打ち出した時期の名作群だ。 デューク・エリントンからの影響を消化しつつ、日本人としての自身のアイデンティティをビッグバンド・ジャズに取り入れた作品は、今では世界中のジャズミュージシャンたちにインスピレーションを与えている。若き日のマリア・シュナイダーが秋吉のコンサートを見て、感銘を受けた話は有名だ。 『孤軍』では鼓(つづみ)を用い、フルートを和楽器に見立て、『インサイツ』では雅楽で使われる打楽器の羯鼓(かっこ)や能楽の謡(うたい)を取り入れた。アメリカのジャズとは全く異なる日本の要素を組み合わせ、独特の情感を生み出したこれらの楽曲は色褪せるどころか、その輝きを増している。挾間美帆が2021年の「NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇」で取り上げ、テリ・リン・キャリントンが2022年に編纂した女性作曲家による新たなジャズスタンダード集『New Standards: 101 Lead Sheets by Women Composers』にも収められた表題曲でも知られる『ロング・イエロー・ロード』も必聴だ。 さらに、発表50周年を迎えた『孤軍』のアナログ盤リイシューも実現した。秋吉による最初のビッグバンド作品にして、ビッグバンドに日本の要素を取り入れた史上初の作品でもある。今回は12月12日に95歳を迎えた秋吉へのインタビューが実現。『孤軍』の制作背景についてや、ジャズをやることと日本人としてのアイデンティティの関係を語ってもらった。