【能登半島地震】大地震を予測する新報告が出ても27年前の被害想定を変えなかった石川県、隣県・富山は変えたのに
(科学ジャーナリスト:添田 孝史) 30年前の阪神・淡路大震災で、神戸市の中心部は震度7に襲われた。研究者は震災の21年前に活断層による大地震を警告して報告書を神戸市に送っていたが、神戸市は聞き入れず、震度5強しか想定しなかった。それは住宅や水道の耐震化など備えの不十分さにつながり、多くの死者を生じさせた。 【図】左図は1997年に石川県が予測した震源域と2007年に公表した被害想定、右図が2024年1月1日の能登半島地震の実際の震源と被害状況。予測していた地震断層の位置や大きさは、今年元日の地震を引き起こしたものとは大きく違っていた 2024年1月の能登半島地震も事情が似ている。研究者は14年前に震源の活断層を見つけていた*1 が、石川県は地震の研究がどんどん進んでいたのに27年前に策定した被害想定を見直ししておらず、それが被害の拡大につながった可能性がある。 地震の最新の研究成果を、地元の行政が防災に生かさない。その失敗はなぜ繰り返されたのだろうか。 *1 産総研TODAY 2010.09 ■ なぜ揺れの想定を見直さなかったのか 2024年1月1日に発生した能登半島地震(M7.6)で、石川県では死者408人、全壊6058棟の被害があった(24年10月15日現在)*2 。石川県が能登半島沖の地震で1997年に予測していた死者は7人、全壊は120棟*3 だったから、予測がとても甘かったことがわかる。 *2 石川県「令和6年能登半島地震による人的・建物被害の状況について」 *3 石川県地域防災計画 石川県が予測していた地震の規模はM7で、それも能登半島から10~20km離れた海底の活断層が揺れると予測していた。一方、実際に起きた地震では、活断層は能登半島の直下にあった(地図1)。 この能登半島直下の活断層は、2010年に産業技術総合研究所が報告していた。石川県も、それを知っていて、津波の想定にはその報告を取り入れていたが、揺れの予測は見直さず、そのままだった。 なぜ揺れの想定は見直されなかったのか。
石川県に聞くと、「国の評価待ちだった」と言う。政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が、最新の研究成果をもとに、活断層のリスクを評価してまとめるのを待っていたというのだ。 しかし、その説明では腑に落ちない。 ■ 隣県が想定済みの活断層を19年放置 石川県は、19年前に地震本部が評価を終えて公表していた能登半島の別の活断層についても被害想定に取り入れていなかったからだ。 それは「邑知潟断層帯」と呼ばれる活断層(地図2)で、地震本部は、2005年に長さ44kmで、M7.6程度の地震が発生すると発表していた*4 。 *4 地震調査研究推進本部 地震調査委員会 「邑知潟断層帯の長期評価について」(平成17年3月9日) 石川県は、1997年にこの断層帯でM7.0の地震が発生するとして被害想定していた。2005年に地震本部がもっと大きな地震になると予測したのに、1997年の被害想定を見直さず、ほったらかしだった。 お隣の富山県は、この邑知潟断層帯について、国の評価を2017年に取り入れていた。同じ活断層を、石川県はM7.0、富山県はM7.6の地震を起こすとして備えていたのである。石川県の予測は、地震の規模としては8分の1の過小評価だ。 石川県議会では何度も地震想定の古さが問題になっていた。 「県内の主な活断層である邑知潟断層などの再評価をして必要な対応を」(2016年4月28日) 「県内に分布する邑知潟断層帯や森本・富樫断層帯で起こりうる地震の被害想定については、今でもおよそ20年前のデータを使って、その後、能登の地震、そして東日本大震災が発生しても見直しをされていない。県の地域防災計画についても20年前のデータをもとに策定されている」(2018年2月13日) 「今後検討していきたい」(県危機管理監、2016年4月)と県は返答していたが、実際に見直しに着手したのは2023年で、間に合わなかった。