<車庫ぶら>トップレベルの技術を持つ森之宮検車場へ
大阪市営地下鉄の心臓部なのだ
「ぜひ見せたい設備があるんです」と、太古場長が隣の建物に案内してくれた。壁際のボタンを押すと、SF映画のような警報音が鳴り響き、線路横の床がパカッと開いて第三軌条が出現した。
「車両の修理やリニューアル工事の後、この装置を使って動作試験を行います。普段は作業の邪魔にならないよう、また事故防止のため収納できるようになっています」安全第一のため採用された設備なのだ。 森之宮検車場には、この南側のほかに北東にも大きな検査棟がある。ここでは重要部検査や全般検査など、更に大掛かりな検査が行われている。 中に入ると、台車を外した車体が台に載せられ、様々な機器の取り外しが行われていた。「全般検査では、台車やモーター、車内の機器などを徹底的に分解・洗浄し、消耗した部品は交換します。」重い部品を取り外すエリアは、床がコンクリートではなく木レンガになっていた。部品が落ちた時のことを考え、また油がついても滑りにくいからだという。 分解・整備される部品は、車両形式ごとに箱に分けられる。その中には、堺筋線や長堀鶴見緑地線の番号もあった。ここでは中央線・千日前線の車両に加えて谷町線の車両検査も受け持ち、更に線路のつながっていない堺筋線・長堀鶴見緑地線・今里筋線の車両部品をトラック等で搬入しての検査も担当。まさに、大阪市営地下鉄の心臓部なのだ。
これからも技術に磨きをかけていきたい
最後に、車両保存庫を案内してもらった。森之宮検車場には2つの保存庫があり、地下鉄3両・市電2両・トロリーバス1両の合計6両が保存されている。 どの車両も定期的に清掃・補修されており、取材時はちょうど路面電車の床に油引きが行われていた。また一部の車両は製造当時の姿に復元されている。車内の広告などは引退当時のままで、思わず「懐かしい!」と声が出てしまった。 「車庫の内部なので、なかなか市民や鉄道ファンの方に見てもらえない」が、先日の「大阪市営交通フェスティバル」では久しぶりに一般公開された。2013年には新世界で路面電車の「出張展示」も行われており、今後も機会があれば積極的に見てもらいたいとのことだ。 見学を終えた頃、ちょうどリニューアル工事を完了した谷町線の新20系が、試運転のため発車していった。当時の最先端技術を取り入れた新20系も、デビューから25年以上が経過し順次リニューアルが進行。車内はもちろん、制御機器も一新されている。 実は大阪市営地下鉄は、日本初のリニアモーター車両の導入をはじめ常に鉄道車両技術のトップレベルを誇っている。 「お客様が安全・快適にご乗車できるよう、これからも技術に磨きをかけていきたい」と、太古場長は話してくれた。 (文/伊原薫/鉄道ライター) ■伊原薫(いはら・かおる)大阪府生まれ。京都大学大学院・都市交通政策技術者。(一社)交通環境整備ネットワーク会員。グッズ制作やイベント企画から物書き・監修などに取り組む。都市交通政策や鉄道と地域の活性化にも携わっている。好きなものは103系、キハ30、和田岬線、北千住駅の発車メロディ。