「ソフトバンクから移籍させてくれ」は本当か? 契約サイン保留直後、リチャードが2度口にした“ある言葉”…じつはプロ野球界の問題「飼い殺し」とは
「メジャーで頂点に立てる」リチャードの苦境
リチャードは二軍のウエスタン・リーグでは今季までに5年連続本塁打王、3年連続打点王を獲得した。同じ沖縄出身で公私ともに親交の深い山川穂高にリチャードのことを問うと「本を出せるくらい、いっぱい喋ることはありますよ」と愛を込めたジョークを飛ばしつつ、ちょっと真剣なまなざしで「ポテンシャルはメジャーリーガー。メジャーでも頂点に立てる」と言った。 だが二軍では無双の活躍をするのに一軍に上がるとサッパリなのだ。もう、それを何年間も繰り返している。2021年に一軍デビューを果たすと34試合出場116打席で7本塁打をマークして長距離砲としての十分な資質は証明してみせたが、翌年は3本塁打と減少し、直近2年間は一軍ノーアーチに終わっている。 毎年、全くチャンスをもらえていないわけではない。ただ、ソフトバンクのチーム状況を思えば、我慢強く起用してもらえるような環境ではない。一塁には今季143試合全てに4番打者で出場して本塁打と打点の2冠王に輝いた山川がどっしりと構え、三塁は先のプレミア12で侍ジャパンの中軸を任された栗原陵矢がいる。リチャードの置かれている立場は確かに厳しいのだ。 そもそも長距離バッターの育成は難しいとされる。もし、リチャードを目先の結果にとらわれない環境に置いて勝負させたら、一軍でどれくらいの成績を残すだろうか。それを確かめてみたいと考えるのは、本人だけにとどまらないはずだ。
じつはプロ野球の大問題「保留制度の闇」
このような“移籍志願”とか“トレード直訴”という言葉は、過去の球界でもたびたび聞かれた。 たとえばサッカー界では選手移籍が活発に行われるし、一般社会に置き換えればある程度は個人の自由で同職種への転職活動もできる。しかし、日本のプロ野球(NPB)には「保留制度」というものが存在する。 保留制度とは、球団の保留名簿に記載され、球団が保留権を有する選手については、国内外を問わず、選手が他球団に移籍するための契約交渉や練習参加等も行うことができないとする制度のことだ。その中で、選手が自らの意思で移籍を可能とする唯一例外となっているのがフリーエージェント宣言である。 ただ、プロ野球選手会は移籍の活性化を従前より訴えており、出場機会に恵まれないいわゆる“飼い殺し防止策”として、2018年7月より「現役ドラフト」の議論が開始された。そして2022年12月に第1回現役ドラフトが行われた。一昨年と昨年の2度の開催だけを見ても、一定の成果を収めていると十分言えるだろう。 しかし一方で、過去2年は“最低限”の運用にとどまったのも事実。各球団は2名以上のリストを提出しているにも関わらず、全球団が1巡目で指名を終えている。 球団側の立場で考えれば、自チームのスカウトが必死になって探してきた金の卵をじっくりと育てている真っ最中で、選手の才能をほかの誰よりも信じているわけだから簡単に手放したくない気持ちはよく理解できる。 どちらにも真っ当な主張があるのだから、選手と球団の双方が完全満足する解決策というのはなかなか見つからない。 現役ドラフトが導入された後の今年も〈7月のオールスター期間中に行われたプロ野球選手会の臨時大会で、NPBと断続的に話し合っている保留制度が独占禁止法に反するとして、公正取引委員会への申し立てを検討していることが明らかになった〉と報じられている。 その後の続報は特にないが、今回のリチャードの一件は少なくとも球界全体としてこの問題から目を背けてはいけないと示してくれたのは間違いないところだ。
(「野球のぼせもん」田尻耕太郎 = 文)
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