三題噺、総裁選と独裁政権と永井豪
そしてそのさきがけとなったのは「ススムちゃん大ショック」という短編だと自分は思っている(現在同作は電子書籍の『永井豪短編集 (8) ススムちゃん大ショック』:イーブックイニシアティブジャパン に収録されている)。 ある日突然、大人が子どもを殺しはじめる。子どもを庇護してくれる存在であるはずの大人が、笑顔と共に子どもを次々と殺していく。ススムちゃんたち子どもは大人から逃れ、隠れる。なぜそんなことが起きたのかは分からない。不条理で残酷な状況をススムちゃんたちはなんとかして生き延びようとする。 が、やはり適応しきることはできない。自分のママだけは自分を殺すことなく守ってくれるのではないか。ススムちゃんは仲間と別れて自分の家に戻る。家ではいつものようにママが、晩ご飯の支度をしている。いつもと変わらないママがいた! 「ママ! ただいま!」と叫んで母親に飛びつくススムちゃん。 次のコマに続くあまりにショッキングな結末……マンガは「明日おこりつつある未来の落とし穴」というモノローグで締めくくられる。 「ススムちゃん大ショック」におけるママと自民党、ススムちゃんと心弱き我々が、重なるようには見えないだろうか。 ●能登半島と総選挙と永井豪 今、我々は2つの選択肢の間に立っているようだ。すなわち「自民党を選び、自民党と共に独裁の業火の中で滅ぶか」「自分をだますのを止め、生き残る道を探るか」だ。「自民党を選んで生き残る」という解はないと私は思う。 能登半島を抱える石川県は、保守王国とも呼ばれる自民党の牙城だ。かつて自民党の政策の基本は利益誘導であり、その意味では石川県は母のごとく住民を庇護する自民党を信用し、安心していたと言えよう。 が、今年正月の大きな被害を出した能登半島地震からの復興対策はどうにも鈍い。かつての自民党なら特別立法をしてでも復興を急いだであろうに、今や政府筋から「人口減少局面に入ったので、過疎地は畳むべきだ」という発言すら出る状況だ。 9月21日から23日にかけて、能登半島は豪雨に見舞われ、いまだ復旧せぬ地震被害に、豪雨被害が重なった。 被害著しい能登半島先端の輪島市は、「ススムちゃん大ショック」作者の故郷でもある。震災では同地に立地する永井豪記念館も焼失し、大きな被害を受けた。 記念館被災にあたって、永井豪氏は「私は現役のマンガ家ですので、もし(注:原稿などの展示物が)失われていたとしても、いくらでもまた描いたり作ったりすることが出来ると思っています。そのこと自体は大したことではありません。それよりも今は、輪島をはじめとする各地で被災されたみなさんが一日でも早く元の生活を取り戻せるよう、少しでもお手伝いができればと思っております。」というコメントを発表した。 自民党新総裁に選ばれた石破茂氏は、早々に「10月27日衆議院選挙」と宣言した。「緊急事態時に選挙を延期できる」とするのが自民党が改憲によって目指す緊急事態条項だが、今まさに能登で緊急事態が起きているのに、自民党は選挙を延期しようとしない。 被害の激しい奥能登は、11月になれば雪が降り、冬を深い雪の中で過ごさねばならない地だ。10月27日選挙とは、11月までなにもしないということであり、11月までなにもしないということは、すなわち来年春までなにもしないということである。
松浦 晋也