三題噺、総裁選と独裁政権と永井豪
9月17日の朝日新聞は、2013年参院選直前の6月30日日曜日に、安倍晋三首相、荻生田光一、岸信夫衆議院議員が、自民党本部総裁応接室で、得野英治・世界平和統一家庭連合(旧統一教会)会長、宗龍天・全国祝福家庭総連合会(旧統一教会の関連団体)総会長、太田洪量・国際勝共連合(旧統一教会の友好団体の政治団体)会長などと面談していたとスクープした(肩書はすべて当時)。「教団側による自民党候補者の選挙支援を確認する場だった」とのことだ。 ちなみに同日のメディアの首相動静報道では面会者名は隠されていたそうだ。しかも、わざわざ永田町付近が閑散とする日曜日を選んで会談を持つということは、長らく日本国民をむしばんできたカルト団体との協力関係が国民に対する背信行為であり、隠蔽する必要があることを、安倍首相サイドが自覚していた可能性を示唆する。 私は、2013年以降の自民党のイメージ戦略に、旧統一教会が持つ宣伝と洗脳のノウハウがかなり流入したのではないかと疑っている。つまり「有権者がまともな判断をしないで、自動的に自民党支持に流れる」ことを狙って旧統一教会のノウハウを使ったのではないか? 特に2019年以降に安倍首相が多用した「悪夢の民主党政権」という言葉は、旧統一教会の影響を強く感じさせる。 例えば「悪夢」という決めつけを基調としている点だ。従来の政策論争に基づく政党間の論戦からはまず出てこない言葉である。そして対立する者への有無を言わさぬ決めつけは旧統一教会などのカルトがよく使う手段だ。旧統一教会は敵対者をよく「悪魔(サタン)」という言葉で攻撃する。「悪魔の民主党」では、旧統一教会色が強く出過ぎるので、「悪夢」を使ったのではないか。 が、そうした自民党自らが行うイメージ操作以上に、我々が自民党を支持してしまう理由があるように思う。「生活がつらければつらいほど、あえて社会の勝ち組になった気分に浸って、ひとときの安心を得ようとする」切ない心の動きである。 ●「君たちはっ、会社の恩というものを忘れている!」 私には小さな、しかし忘れ難い体験がある。 今62歳の私がまだ25歳だった就職2年目、務めていた会社で労働組合が立ち上がった。最初の団体交渉を会社側に申し込み、社前集会を行ったのだが、その社前集会に、ひどく汚れた服装に長く伸びた髪、酒臭い息を吐く赤ら顔のおっさんが殴り込みをかけてきたのである。 彼は「君たちはっ、会社の恩というものを忘れている!」と叫びながら、もつれる脚で誰彼構わず突っかかってきた。 もちろんおっさんは集会に参加していた若い社員たちがあっさりと排除したのだが、その様子――なによりも「君たちはっ、会社の恩というものを忘れている!」という叫びは、長く私の心に残った。 どう考えても、社員の我々以上に「会社の恩」とやらから遠いところにいるはずの、おそらくは無職・住所不定のおっさんが、なぜことさらに、まず間違いなく面識すらない会社経営陣に味方して「会社の恩」を強調するのか。 「おそらく、彼自身がとてもつらかったのだ」と理解するまで、かなりの時間がかかった。 彼はつらかったのだ。どういう経緯かは知らないが、社会からはじき出されて住所不定で安酒飲んで酔うしかない自分の身の上がつらくてたまらなかったのだ。だからこそ、ひととき会社経営陣と一体化した気分になり、初めての社前集会を開く我々の中に殴り込んで、「君たちはっ、会社の恩というものを忘れている!」と叫ぶことで、「自分は社会の上層部である会社経営陣と一体だ」という気分に浸りたかったのだ。そこには「おまえら恵まれた正社員のくせして、会社に逆らいやがってバカ野郎」という妬みもあっただろう。 ネット、特にSNSを観察するに、「君たちはっ、会社の恩というものを忘れている!」のおっさんと同じ心境の人がかなりいるように思われる。 日本経済の「まっさかさまにおちてでざいあ~」の状況を作ったのは、「失われた10年」を20年に延ばし、30年に延ばし、どうやら40年以上にする勢いの日本の政治である。バブル経済崩壊以降の30年以上、もっとも長く政権を維持してきたのは自民党であり、自民党は「失われた30年、40年」の責任を免れることはできない。