デザイン経営の推進はデザイナーでなければならないのか――CDOに必要な3つのこと
● 変革のスピードにつながる 周囲を「巻き込む力」、周囲に「頼る力」 「深さ」「幅」「高さ」は、各企業の事情に関係なく、CDOに共通して必要な要素であり、前回説明したNECのデザイン組織改革にも、この「深さ」「幅」「高さ」が発揮されたと思う。ただ、NECのようなコングロマリットにおいては、個別に必要なスキルもある。 今回の組織改革に要した時間は3年弱であり、なぜそれほどの短い時間でここまでの組織改革に成功したのかとよく聞かれる。そのスピードを生み出した一番の要因は、「周囲を巻き込むこと」「周囲に頼ること」ができたからではないかと私は考える。 デザインが企業価値を向上させるのに役立つことを、社内の多くの人たちに伝え、その考えに共感してもらい、改革を推進するための機運を高めていく。それが周囲を「巻き込む」ということである。 また、実際に組織の形を変えたり、新しい仕組みを作っていったりすることになれば、周囲の理解や共感だけではなく、具体的な協力を仰ぐことが必要になる。つまり、「巻き込む」だけでなく、「頼る」ことが求められるということだ。 私は、NECに戻ってからの最初の1年間、役員一人一人の元に足を運んで、デザインの力とそれを最大化する組織体制の必要性を説いて回った。それを「デザイン行脚」と呼んでいたことは前回述べた通りである。その行脚によって、多くの人たちを巻き込み、頼れる環境をつくれたことが、組織改革の成功につながったことは間違いない。 私は、もともと一介のプロダクトデザイナーである。その私一人にできることなどたかが知れている。必要なのは理解者と協力者の存在であり、その人たちの力を頼って最良な形を共に実現していくことである。こうした姿勢、進め方は、NECの組織改革という個別の取り組みに効果的だったが、CDOに必要な資質を考える上でもヒントとなる。組織の中で人に頼るのは苦手だ、恥ずかしいと思う人もいるかもしれないが、私にはそうした性質がなかったことは幸いだったかもしれない。