デザイン経営の推進はデザイナーでなければならないのか――CDOに必要な3つのこと
デザインを経営に取り入れるためには、CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)の設置は不可欠とされている。しかし、そこで求められる役割や資質について、解像度の高い議論は進んでいない。デザインを中心としたNECの組織改革に取り組む過程で見えてきた、CDOに必要な要素について考える。 【この記事の画像を見る】 ● デザイン部門のトップとCDOの境界線 「深さ」「幅」「高さ」 私がデザイン本部長としてNECに招聘されたのは2020年5月。そして、Chief Design Officer(CDO)に就任したのが23年4月だった。現在はCDOとして、経営戦略と一体化したブランド戦略の取り組みを続けている。CDOになるまでの3年間、さらにCDOになってからの2年弱の変革に取り組む中、私は経営メンバーにおけるデザイン分野の責任者としてのCDOに求められる要件について考え続けてきた。もちろん、各企業の中で経営の課題も違えば、デザイン組織が置かれている状況も違うので、CDOが担うべき役割もさまざまだろう。それでもデザインの役割が拡張し、経営にも積極的に取り入れていこうとする企業にとって、CDOの設置は不可欠であり、そこに共通して必要な要素はあるはずだと考える。 CDOに共通して求められる役割・資質とはどのようなものだろうか。現場のいちデザイナーという立場から、NECという多様なビジネスを推進する企業の中で組織改革を推進するまでに至った私の経験は、企業におけるさまざまなレイヤーのデザイナーの役割が集約されたものといえる。その積み重ねから得た「経営者としてのデザイナー」に求められることを、「深さ」「幅」「高さ」という軸で考えてみたいと思う。 まず、CDOには最低限、デザインという営みに対する造詣の「深さ」が必要だと考える。デザインについての理解、広範かつ高いデザインスキル、実作業における経験──。それらはデザイン組織のリーダーとしては当たり前に求められることである一方、経営者として、その会社のデザイン全てに最終的な判断を下す上でも、欠かせない要素である。生み出されるものが製品であれサービスであれ、デザインのクオリティーを深掘りし続ける姿勢がなければ、デザインの力を企業価値につなげる確かな道筋をつくることはできないと私は思う。 デザインの役割が広がる中、CDOにも対応力の「幅」が求められている。出自がプロダクトデザイナーだからプロダクトのデザインしかできない。グラフィックデザイナーだからサービスデザインについては分からない──。それでは、多様な事業を手掛ける組織に、デザインを適応させていくことはできない。デザインの全ての行為には目的があり、適切なプロセスで、アウトプットまで導くのがデザイナーの役割である。CDOにはその枠組みをもって、さまざまな分野でデザインの力を発揮できる幅が求められる。 「高さ」とは、デザインの視座を表しており、ここには二つの要素が含まれる。一つは経営陣や事業責任者のデザインへの理解をつくるための対話力である。デザインを企業活動の中枢に位置付けるためには、経営方針や事業の方向性についての議論に積極的に加わらなければならない。そこではデザインの専門知識や暗黙知を前提にした会話ではなく、経営者としてのコミュニケーションが求められる。CDOのデザインに対する視座は自然に経営や事業運営という高さまで持ち上がることになる。 もう一つは企業価値としてデザインの価値を捉えられることだ。CDOはデザインという資産を経営として生かすことが最大の役割である。そのためには、デザイン組織から経営を見るのではなく、その逆の捉え方、つまり経営としてデザイン組織を駆使する姿勢が求められる。 二つの要素はいずれも、自社の経営とデザインの関係を客観的に捉えることが求められるため、それにはおのずとデザインに対する視座の高さが生まれてくるはずである。 こうした「深さ」「幅」「高さ」は、範囲が明確なものでもなければ、基準のようなものもない。ただ、デザインの力を企業価値に最大限発揮させるCDOとして、求め続けるべきことではないかと思う。私自身も、NECに戻ってから日々勉強してきたし、今も勉強を続けている。