【追憶の有馬記念】08年ダイワスカーレット 本命党も歓喜の強さ 海外飛翔かなわず結果として引退戦に
この年の有馬記念は“本命党”にとっては力が入る一戦だった。1番人気ダイワスカーレットの信頼度は相当に高そうだった。 前走の天皇賞・秋ではレコード決着の中、ウオッカと並んでゴールに飛び込み、鼻差2着。そのウオッカが今回は不在。さらには、直線が短い中山が舞台。前年の有馬記念でも2着(勝ち馬マツリダゴッホ)に踏ん張っており、急坂への耐性は証明済みだった。死角は見当たらなかった。 大方の予想通り、ダイワスカーレットは完勝を収めた。ところが、2着は大外から飛んできた14番人気アドマイヤモナーク、3着は10番人気のエアシェイディだった。3連単は98万5580円。ダイワスカーレットの1着固定で買っても、この2、3着はなかなか買い目が回らない。馬券的には簡単そうで難しい一戦だった。 まあ馬券師たちの思惑は置いておくとして…ダイワスカーレットにとっては、ここまでの数戦のうっぷんをまとめて晴らす会心の決着となった。14頭立ての8枠13番。だが、外枠の不利など関係なかった。最内からカワカミプリンセスが抵抗する姿勢を見せたが、口笛でも吹くように楽々と先頭に立った。 向正面に入って13秒台へとペースを落としたが、他馬が動き出す準備を始めた頃には、また12秒台に戻した。そして、そこから11秒5-11秒9。メイショウサムソン、スクリーンヒーロー、マツリダゴッホといった面々の手綱が激しく動く。ボクシングでいえば、必殺のボディーを叩き込んだ瞬間だった。後続が離れた。 直線はまさに独壇場。1頭だけサッと前に出て後続を置き去りにした。ゴールする前から安藤勝己騎手(引退)の右手が上がった。 71年トウメイ以来、37年ぶりとなる牝馬による制覇。「本当に強い馬だね」とアンカツは語った。強さを信じていたが準備も怠らなかった。芝の内側の傷んでいる部分を入念にチェックした。「4頭分くらい、外を回さないと状況は変わらない。ならば(距離ロスを考慮すれば)内を走っても一緒だと判断した」。さすがのジャッジに松田国英師も「完璧な仕事ぶりです」と感嘆した。 結果的には、これが名牝ダイワスカーレットにとって現役最終戦となったが、当時は翌年も走り続ける予定だった。松田国師は「来年は海外で3つ勝ちたい」と大きな夢を語った。 翌年、春はドバイワールドCをターゲットに設定。まずは国内でフェブラリーSに出走するプランを立てた。だが、追い切った後、脚部不安を発症。浅屈腱炎と診断され、引退に追い込まれた。 無事に海外遠征していたら、どんな結果だったか。どんな展開でも崩れなかった馬だ。恐らく好勝負に持ち込めていたのではないか。天皇賞・秋で火の出るような名勝負を展開したウオッカと、海外のG1で雌雄を決する。そんな夢も描けたかもしれない。早期の引退が本当に惜しまれる。