ロールス・ロイス・ファントムV ジェームズ・ヤング(2) 優雅で機能的 105年の歴史の貴重な遺作
不安なく軽やかに流れていく巨大なボディ
筆者は幸運にも、少しの時間運転させていただいた。ボディは巨大だが、扱いにくくは感じられなかった。美しいスタイリングの仕上げは細部まで見事で、ドア開口部の境目は近寄らない限り見えないほど。 6.2L V8エンジンはシャープに回り、動力性能に不足はない。アクセルペダルへの反応は滑らかで、110km/hまで加速しても、回転数を問わず力強い。 ステアリングの反応には締まりがあり、操縦系のすべてに適度な重み付けがある。自慢のエアコンは良く利く。パワーウインドウやリアシート側を仕切るデバイダーも、静かにスルスルと動く。 同時代のシルバークラウドより全幅があるとはいえ、運転席からの視界は広く、すぐに前後左右の感覚を掴める。6m以上ある全長も、不思議と問題には感じられない。グレートブリテン島の広くはない田舎道を、不安なく軽やかに流れていく。 ドラムブレーキは、サーボが弱くなる低速域では強めにペダルを踏む必要があるものの、ある程度の速度なら頼もしい制動力を発揮する。前後のバランスも良く、漸進的に効く。 ロールス・ロイス社製の4速オートマティックは、至ってシームレスに次のギアを選ぶ。すべてがスムーズで、ドラマチックさは薄い。
優雅で実際に機能的 世界最高のリムジン
路肩へ停め、広いリアシートへ座り直す。その空間は、まさに走る応接間。あるいは、役員のオフィス。 太いリアピラーが、マリナー・パークウォード・ボディにはないプライベート感を生み出す。背もたれへ寄りかかれば、殆ど外からの視線は気にならなくなる。 ラム・ウールが贅沢に用いられたカーペットが敷かれ、目の前には補助席。インテリアの一部へ、ラジオが美しく埋め込まれている。サイドウインドウやデバイダーのスイッチも、同じく巧妙にレイアウトされている。 数10年前と異なり、通信手段の進化で、余程の実業家でも現地へ実際に足を運ぶ必要性は低くなった。それでも、1分1秒を争うような人のための移動オフィスとして、ファントムVは2024年でも活躍できそうに思える。 取り引きに疲れたら、運転を楽しむのも悪くない。これほどまでに優雅で威厳を漂わせつつ、実際に機能的なクラシックカーを、筆者は他に思い浮かべることが難しい。 同時期のシルバークラウドとシルバーシャドウは、少し競合へ劣るところがあったかもしれない。だが、ジェームズ・ヤングのロールス・ロイス・ファントムVは、世界最高のリムジンだったといって過言ではない。その評価は、現代でも的外れではなさそうだ。 協力:クラシック・オートモービルズ・ワールドワイド社
ロールス・ロイス・ファントムV ジェームズ・ヤング(1959~1968年/英国仕様)のスペック
英国価格:9700ポンド(新車時)/20万ポンド(約3800万円/現在) 生産数:196台 全長:6045mm 全幅:2007mm 全高:1765mm 最高速度:162km/h 0-96km/h加速:13.8秒 燃費:4.5km/L CO2排出量:-g/km 車両重量:2722kg パワートレイン:V型8気筒6230cc 自然吸気OHV 使用燃料:ガソリン 最高出力:223ps(予想) 最大トルク:46.9kg-m(予想) トランスミッション:4速オートマティック(後輪駆動)
マーティン・バックリー(執筆) ジャック・ハリソン(撮影) 中嶋健治(翻訳)