言うこと聞かないと「気合」。県史も認める佐渡金山の朝鮮人強制労働、その痕跡を歩く 世界遺産登録へ「負の歴史」をどう説明するか
なぜ隠すのか。文書館の担当者に取材すると「原蔵者(ゴールデン佐渡)から問い合わせがあったら応答しないでほしいと言われている」との回答だった。名簿の存否さえ明らかにしなかった。 ▽徴用工問題 日本政府は1990年代初頭、韓国政府の要請を受け、動員した軍人軍属や徴用工、挺身隊員など労働者の朝鮮人名簿を提供している。ネットワークは、佐渡の名簿も公開し、韓国側に提供すべきだと日本政府に要請書を送った。 徴用工を巡る問題は外交問題ともなってきた。元徴用工らは1990年頃から、損害賠償を求めて日韓で訴訟を起こしてきた。日本政府は1965年の日韓請求権協定で解決済みだとの立場。2018年からは、労働を強制された徴用工には当たらないとして「旧朝鮮半島出身労働者」と呼び始めた。 韓国最高裁は2018年、三菱重工など日本企業に賠償を命じた。これも日本政府は「断じて受け入れられない」との立場だ。韓国の尹錫悦政権は2023年3月、賠償金支払いを韓国の財団に肩代わりさせる解決策を発表している。 ▽史実と向き合う
問題にどう向き合うべきか。新潟国際情報大の吉沢文寿教授(朝鮮現代史)に話を聞いた。 「日中戦争が長期化して、国内で多くの男性が軍に動員される中で、国内の労働力が不足しました。1938年に施行された国家総動員法に基づいて労務動員計画が立てられ、労働力不足を補う形で朝鮮人が連れてこられた。自由意思というより、戦争を遂行するという国の要請で集められていた。これが徴用工です」 「新潟県や佐渡市が率先して、地域の歴史を残し、継承すべきです。日本政府は史実を認め、歴史と向き合うことが必要です」 「ユネスコには世界平和の精神があります。平和を構築するには、負の経験を超える必要があり、隠ぺいからは何も生まれない。朝鮮人の労働実態や生活が分かるような環境整備が必要です」 ▽負の歴史をどう説明するか 韓国政府は、世界遺産登録に反対はしないが「強制労働の事実を含む全体の歴史を反映すべきだ」との立場だ。
林芳正官房長官は「韓国とは誠実に議論している」、花角英世新潟県知事は「韓国との関係は、国が丁寧に議論していると理解している。見守りたい」と述べている。 登録可否を正式に決めるのは、7月21~31日にインドで開かれるユネスコ世界遺産委員会。ここで、日本政府が“負の歴史”を紹介する計画をどう説明するのかが焦点となりそうだ。(取材・執筆=渡辺敦、神部咲希、井上慧、角南圭祐)