「原子力でしかできないこと」に投資しようじゃないか
前回、本連載“マンガ班”のモリナガ・ヨウさんが、「ローラースルーGOGO」を描いていた。 ホンダ(※)がつくったローラースルーGOGOが発売されたのは1975年の春。遊んだことのある人は、もはや50代半ばから後半になってしまった。(※発売当時は本田技研工業) ローラースルーGOGOは、キックスケーターを前2輪、後ろ1輪の3輪にしたような形状をしたユニークな乗り物だ。基本的には子ども向け遊具という位置付けの商品だった。 前2輪はスケートボードの車輪と同じ仕組みで、体を傾けると傾けた方向に車輪が切れ込んで曲がる。後輪には独特の駆動機構が付いている。この駆動機構が大変効果的で、ローラースルーGOGOは自転車と比べてもそこそこの速さで走ることができた。 ローラースルーGOGOは、発売以来半年ほどで、110万台を売る大ヒット商品となった。 ところが、1976年2月、ローラースルーGOGOに乗っていた子どもが交通事故に遭い、死亡するという事故が立て続けに起きた。これが、新聞によるローラースルーGOGOへのバッシングに発展する。また、当時は路上交通が今よりもはるかに未整理で、「交通戦争」という言葉が流行するほど交通事故件数も死者数も多かった。このこともあって、ブームになって一気に数が増えたローラースルーGOGOに厳しい目が向けられ、結果、ローラースルーGOGOは販売中止となってしまった。 私は一時期ローラースルーGOGOを「これはラストワンマイルの新しいモビリティーになるかもしれない」という期待感から、集中して調べたことがある。結論としては「いけるかも」だった。 ただし「電動ローラースルーGOGO」ではなく、「軽くて、駅まで乗って行ったらぱたんと畳んでそのまま持って歩ける乗り物」として可能性があるという感触だった。 ローラースルーGOGOには、体重45kg以下の子ども向け「ローラースルーGOGO」と同60kg以下の大人向け「ローラースルーGOGO7」とがあった。重量はそれぞれ4.6kgと7.3kg。しかも構造的に特に軽量化部品を使っているわけでもない。 ということは、今の炭素複合材などの軽量素材を使って車体を構成すれば、ローラースルーGOGOは、大人向けでも4kg台でつくれるのではないか。駅まで乗って行って、そのまま畳んで気楽に持って歩ける乗り物になるのではないかと期待したのである。現在の折り畳み自転車はだいたい10~12kgあって、持って歩くにはそれなりの覚悟が必要だ。これが4kg台ならば、もっと気軽に持ち歩け、電車に持ち込めるラストワンマイル・モビリティーになるのではなかろうか。 しかし、その後そのような乗り物は製品化されずに今に至り、それどころかローラースルーGOGOと似ていなくもないが、実態は似ても似つかぬ電動マイクロモビリティーが、なんと道路交通法の改定までして「特定小型原動機付自転車」という新カテゴリーとして路上を走るようになってしまった。 ●ローラースルーGOGOと原子力 思うに、「次世代モビリティーは電動の乗り物である」というのは、ただの先入観だ。同じことができるなら仕組みは簡単なほうがよい。人力でできることなら、わざわざ電動化する必要はない。 逆に電動にするのなら、どうしても電動でしか実現できないような新しい魅力、新しい用途、新しい効用が必要なのである。 「道具は同じことができるなら簡単なほうがよい」 「それでしかできないことがあればこそ、新しい技術には価値が出てくる」 ということを念頭に置いて、ここで考えてみよう。 何を? 原子力だ。 電動モビリティーも原子力も、人間が開発し、実用化した技術という点では同じだ。扱うエネルギーの量は桁違いだが、同じ手順で考えていくことができる。 原子力――東日本大震災に伴う東京電力福島第1原子力発電所の事故以降、原子力に対する風当たりは非常に強い。実際問題として、東京電力をはじめとした電力各社、さらには原子力発電プラントを製造し、納入し、メンテナンスしているメーカーに、原子力を扱う能力が本当にあるのか疑問に思っている方も多いだろう。