「原子力でしかできないこと」に投資しようじゃないか
米欧が大型探査機を外惑星へ次々と送り込む理由
実は今、太陽系の中に、地球とは全く異なる、地球外生命が存在する可能性が出て来ている。場所は、外惑星領域の水のある星。具体的には木星や土星の衛星だ。 木星は地球の月のような大きな衛星を4つ従えている。木星に近い順に、イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストだ。このうち木星の衛星エウロパには、分厚い氷の表面の奥底に、液体状態の「海」が存在することがこれまでの探査で判明している。 エウロパが木星を巡る軌道は、完全な円ではなく木星との距離は変化する。この重力の違いがエウロパの地殻を1周回ごとに歪める。この力を潮汐力(ちょうせきりょく)という。潮汐力で地殻が歪むと熱が発生する。太陽から遠い距離にあるエウロパで液体の海が存在できる理由だ。潮汐力による熱は、水だけではなく地殻も熱する。すると火山が生成される。火山とまでいかなくとも地殻中の水が温められ、熱水となって海底から噴出する。 海底から噴出する熱水――地球でも同様の環境が存在する。深海底の熱水噴出孔だ。海底での圧力で300度以上の温度になった熱水が、摂氏2度程度まで冷えた海水の中に噴出している。そこには、地上とは全く異なる生態系ができあがり、他の場所では見つからない、独特の生物が生息している。光が届かない深海で、光合成に依存せずエネルギーを得る化学合成細菌を基盤に成り立つ熱水生物群集だ。太古にそのような環境から生命が発生したのではないかという説もある。 これと似た環境がエウロパにあるのならば――そこには地球生命とは完全に独立して発生した宇宙生命が存在する可能性がある。 エウロパと同様の海は、同じく木星の衛星ガニメデにも存在する可能性がある。 それだけでなく、土星まで行くと、もっと生命が存在しそうな衛星がある。土星の衛星エンセラダス――2004年に土星周回軌道に入り、観測を開始したアメリカの土星探査機カッシーニは、2005年にエンセラダスへの接近観測を行い、氷で覆われた表面から宇宙空間に向けて水分が噴出しているのを発見した。エンセラダスには水を噴出する、あたかも間欠泉のような「火山」が存在したのである。カッシーニの観測から、エンセラダスの地下にはエウロパのような液体の水をたたえた「海」が存在すること、表面には100以上の氷の火山が存在すること分かった。 その後、2023年には東京工業大学の関根康人教授、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の渋谷岳造主任研究員らの研究チームが、カッシーニが得た観測データの分析から、宇宙空間に噴出した水の中にリンの化合物であるリン酸が高濃度で含まれていることを発見した。 リンは生命に必須の元素だが、天然での存在量は少ない。生命発生には、なんらかの形でリンが濃縮される自然のプロセスが必須と考えられている。エンセラダスから噴出した水の中に高濃度のリン酸が存在したということは、なんらかのリンの濃縮プロセスがエンセラダスの「海」の中で回っている可能性を示唆する。東工大・JAMSTECチームは、アルカリ性で高炭酸濃度の海水と岩石が反応することで、リンが濃縮されることも突き止めた。 さて、先ほどさらっと「2023年に打ち上げられ、現在木星に向かっている途中の欧州の木星衛星探査機『JUICE』、またこの10月に打ち上げを予定しているアメリカの木星衛星探査機『エウロパ・クリッパー』は太陽電池を電源に使っている」と書いた。JUICEとエウロパ・クリッパーは、共に打ち上げ時重量が6トンもある大型探査機だ。開発予算もなかなかすさまじく、JUICEが15億ユーロ(約2400億円)、エウロパ・クリッパーは50億ドル(約7200億円)もかかっている。 なぜ米欧がそこまで投資して大型探査機を木星に送るのか――それは、そこに地球外生命が存在する可能性があるからなのだ。 もちろん科学者達はすぐに生命が見つかるだなどと安易に考えてはない。一つ一つ観測を積みかさね、最終的にはエウロパかガニメデに着陸機を送り込み、分厚い氷の下の海に深海探査機を降下させて生命の存在を確認しようとしている。つまり、JUICEもエウロパ・クリッパーも「これで終わり」というものではなく、その後も人類が存続する限り続く、宇宙探査という事業の中の一コマということになるだろう。 では地球外生命がもしも見つかったら何が起きるか。 え、何も起きるはずがない?