「デ・キリコ展」(東京都美術館)レポート。シュルレアリスムの始まりと呼ばれるデ・キリコの全容に迫る。
初期から晩年までの作品をテーマごとに総観
20世紀に活躍したイタリア人画家、ジョルジョ・デ・キリコ(1888~1978)。彼の日本では10年ぶりとなる大規模個展「デ・キリコ展」が東京・上野の東京都美術館で開催中だ。監修はキェーティ・ペスカーラ大学教授のファビオ・ベンツィ、担当学芸員は同館の髙城靖之が務める。 デ・キリコが約70年にわたって制作した作品は世界中の美術館に収蔵されているが、今回の展覧会では、代表作を含む約80点以上の作品が一堂に会することとなった。本記事では、展覧会の様子をデ・キリコ作品の魅力とともにレポートする。 ジョルジョ・デ・キリコという作家をひとことで語るのは難しい。その理由のひとつには、作品様式における豊かなヴァリエーションが挙げられるだろう。彼はのちのシュルレアリスムにも大きな影響を及ぼした「形而上絵画」で高い評価を得た画家だが、それと同時にルネサンスやバロックを彷彿(ほうふつ)とさせる、古典主義的な表現手法を用いた絵画も多く発表していた。本展では、「自画像・肖像」「形而上絵画」「伝統的な絵画への回帰」「新形而上絵画」という作品テーマごとに章立てが行われており、デ・キリコがそれぞれのテーマをどのように描き、時代ごとにどのような変化を加えていったのかが総観できる展覧会となった。 本展監修者のファビオ・ベンツィは、デ・キリコの作品様式の変化について内覧会で次のように語った。 「デ・キリコの作風は自由な着想と変化に満ちていますが、わたしは彼が絶対的な現代性を志向し続けた画家であると考えています。夢や記憶といったテーマをいち早く見出した形而上絵画の時代はもちろん、伝統的な絵画に着想を得ていた時期においても、彼は硬直しつつあった前衛表現をつねに問い直していました。彼がたびたび行ってみせた古典美術からの引用は、同時代の画家によってもはや時代遅れと見なされていたモチーフや表現を意図的に提示してみせるという、一種の反前衛的な試みなのです。」