内気な少年が「冷酷な皇帝」に…ナポレオン・ボナパルトの生涯
戦争まみれだった人生
地位、権力、家族などすべてを失った後、ナポレオンは幽閉先での厳しい生活の中で膨大な回顧録(口述筆記)『ナポレオン言行録』(オクターヴ・オブリ編)を残しました。 そこには、こんな言葉があります。 「戦争はやがて時代錯誤になろうとしている」 「私が打ち倒されたことは文明が闘いに敗れたことである。私の言葉を信じ給え、文明は復讐をするであろう。二つのシステムがある、すなわち過去と未来とである。現在はつらい過渡期にすぎない」(『ナポレオン言行録』(岩波書店)オクターヴ・オブリ編/大塚幸男訳より抜粋) もしかしてナポレオンは、最後まであきらめていなかったのかもしれません。もしくは文書を残すことで、自らの「英雄伝」だけは死守しようとしたのか――。 ナポレオンの人生を見ていくと、戦争だけをしていたわけではないものの、あまりに「戦争まみれ」であることが分かります。列強国による対仏同盟の存在があったこと、そして軍事に対する天賦の才があったとはいえ、後半生のほとんどを戦争に費やしています。 彼の51年の短き人生を思うとき、執念という言葉が頭をよぎります。「やがて時代錯誤になる」と認識しつつも戦争を続けたナポレオン。その原動力が「独裁への執念」であったのか、「フランス」への思いだったのか、本当のところは誰も分かりません。 一方で、どんな状況であれ「正当化されてよい戦争」なんてあるのだろうか、と改めて思います。世界各地で起っている戦争を目の当たりにしている現在、「正義のための戦争」は一つも存在しないと強く思います。 すべての戦争は多くの人たちの命を犠牲の上にあるもの。それは18世紀でも現在でも、変わらないはずです。 参考文献: ・『ナポレオン言行録』(岩波書店)オクターヴ・オブリ編/大塚幸男訳 ・『Napoleon: Path to Power 1769 – 1799』(Bloomsbury Publishing PLC)Philip Dwyer・著 ・『Citizen Emperor: Napoleon in Power 1799-1815』(Bloomsbury Publishing PLC)Philip Dwyer・著 ・『Napoleon: A Political Life』(Simon & Schuster Ltd)Steven Englund・著 ・『ナポレオン』①②③(集英社)佐藤賢一・著 ・<Britannica> ・<コトバンク> 精選版 日本国語大辞典/改訂新版 世界大百科事典 その他多数。