『源氏物語』あってはならない<源氏と藤壺>の関係を取り持った女房・王命婦とは?皇子が源氏との子だと知るのはこの三人だけで…
◆皇子への思い 藤壺は源氏との逢瀬(おうせ)によって、ついに桐壺帝の第十皇子を出産します。 その皇子がじつは源氏との子であることを知るのは、源氏と藤壺と王命婦の三人だけです。 桐壺帝は、源氏によく似た男児を抱いて、とても満足しますが、藤壺は罪の思いでいたたまれません。 源氏もその男児を見て沈痛な思いに浸ります。 皇子への思いを、なんとしても藤壺に伝えたいと、王命婦に和歌をあずけますが、正直のところ、返事をもらえるとは思っていなかったでしょう。
◆藤壺からの返歌 王命婦は「ただ塵ばかり、この花びらに――ほんのひと言でも、お返事を」と願い出ます。 花びらとは、源氏がなでしこの花に和歌を付けたことからの、あらたまった言いまわしです。 するとどうでしょう。なんと藤壺からの返歌があったのです。 王命婦は喜びながら、この歌を源氏に差し上げたといいます。二人の心を、ともに理解することのできた人物だからこその喜びです。 この後、出家した藤壺を追って王命婦も出家しますが、藤壺の代理として、皇太子となって宮中にいる幼い皇子にお仕えします。 藤壺の王命婦への信頼が、どれほど厚かったかが、うかがわれます。 ※本稿は、『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
松井健児
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