年収650万円を「東京都」に奪われた男性の言い分 何を答えても否定ありきのパワハラ面接だった
「前の年の所得に応じて算出される国民健康保険の負担が重いです。今は生活保護水準以下の暮らしなのではないでしょうか。不合格の烙印を押され、すべてに自信を失ったような気持ちにもなりました」と打ち明ける。 ■やりがいを語れることがうらやましい 心身ともに余裕がない中で、なぜ裁判の原告に加わろうと思ったのか。そう尋ねると、トモアキさんは迷うことなく答えた。 「何も行動を起こさなければ、(都の)やりたい放題が許されることになってしまうからですよ。私たちは生きていかなければなりません。機械の部品のような扱いは困ります」
今年10月、都内で原告SCたちによる提訴を報告する会見が行われた。トモアキさんは参加することができなかったが、1人の女性SCがマイクを握ると、会見場に集まった記者たちに落ち着いた、やさしい口調でこう訴えた。 「SCの仕事を10年間ライフワークだと思い、やりがいを持って働いてきました。ここにいる記者の皆さんが(自身の仕事を)大切に思い、誇りを持っているのと同じです」 記者たちのパソコンを打つカタカタという音が一瞬、止まった気がした。取材で会った女性SCたちはいわゆるコミュニケーション能力の高い人が多かった。こちらの質問の趣旨を十二分にくみ取り、相手の心に響く言葉を選ぶ勘のよさにたびたび驚かされた。きっと心理職としても有能なのだろうと思ったものだ。会見で記者に語り掛けた女性SCも、その1人だった。
しかし、トモアキさんの受け止め方は少し違うようだった。トモアキさんは「やりがいを語れることが正直、うらやましいです。私にとってはやりがいよりもまずは生活なので」と言った。 ■これからは男性の非正規公務員も増えてくる 私が話を聞いた女性SCたちもやりがいについてだけ語っていたわけではない。中には単身者や子育て中の人もいたので、経済的な打撃の深刻さはトモアキさんと変わらない。一方で男性の収入で家計を支えるケースが多い現状を考えると、男性の非正規公務員の雇い止めもまたむき出しの貧困と直面することになる。トモアキさんの「やりがい」に対する複雑な思いは、そんな切迫さを表しているようでもあった。