机を蹴飛ばし、椅子を投げ飛ばす……暴力が止まらない男子生徒を教師が「忍耐強い人」とほめた深い理由
暴力に走った生徒に私が「あなたは忍耐強い」と伝えた理由
たとえば粗暴な行為、暴言が目立つ子がいると、教師は(そして親も)つい「そんなことをしてはいけない」と厳しく叱って抑えつけようとする。あるいは、「傷つけられた相手の身になって考えてみろ」とモラルに訴えて相手を変えようとする。 しかし、相手を変えようとする道徳的アプローチに効果はない。変わらない子どもを責めるより、こちらの指導法、対応方法を工夫するのが教師の仕事に他ならない。 某年に関わった中1男子のケース。暴言が日常茶飯で、ときに暴力にまで発展する。彼は体が大きく、一歩間違えば大事故につながりかねない危険性があった。4月のある日も教室で暴言を吐き、堪忍袋の緒が切れた学級委員の女子に「うるさい、興奮しないで」とピシャリとやられた。それにますます腹を立て、机を蹴飛ばし、椅子を投げ飛ばした。典型的なパニックである。 周囲の安全確保と本人のクールダウンのため、私は彼を別室に連れて行った。椅子に腰掛けさせ、肩の上下が収まるのを待つ。ここからが指導となる。読者ならどう対応するだろうか。先を読む前に考えていただきたい。 私は彼に、次のように伝えた。 「クラスの多くがあなたのことを、『あいつは気が短くてすぐ怒り出し、暴言を吐く』と言っています。しかし本当のあなたは、怒るとすぐに暴言や暴力に訴えるのではなく、想像以上に我慢しているのではありませんか。私にはそう見えるのですが」 「結構我慢しています」 と彼は答えた。私は彼の目を見てうなずき、 「やっぱりそうでしたか。私が思ったとおり、あなたは忍耐強い人ですね」 そしてこう続けた。 「そこで提案です。せっかく我慢できているのだから、これからも怒ってしまうところをぐっと堪えることができたときは、私にそっと教えに来てくれませんか」 「はい。わかりました」 彼は素直に受け入れた。 彼は、それまでは怒ったら暴言暴力に頼り、結果として叱られることをくり返していた。だから叱責する教師たちと彼との関係性は、日に日に悪化してた。そこで、「暴言暴力を我慢して報告したらほめられる」という逆パターンに修正したのだ。それが私の意図である。 指導が功を奏し、その後、彼の不適切な言動は激減した。 だが、もちろん、こんなふうにうまくはいかないケースもある。 「我慢しているのではないか」という問いにも、「我慢なんかしてねえよ!」と反発する子どもたちも確かに存在する。それが現場というものである。 ではそんなとき、どう対応すればいいだろうか。 記事後編【叱責でも放置でもない「第三の対応」がある…中学教師が現場で見つけた「対立なし」の生徒指導】でさらに私の実践を述べたい。
長谷川 博之