テック業界とトランプの「異常接近」はなぜ起きたのか?
そこに降って湧いたのが、J・D・ヴァンス副大統領候補の選出だ。ヴァンスはティールが支援するVCで働いた経験があり、22年の上院選ではティールから大口の寄付を受け、当選にこぎ着けた。 ヴァンスはGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)などメガIT企業に対する姿勢こそ厳しいものの、仮想通貨など新興技術に関しては規制緩和派とみられ、業界では歓迎の声が多く聞かれている。 ただし、トランプもヴァンスも今のところ「目の前の支持者を喜ばせる」ための言動に終始し、実際の政策はよくわからないという評価も多い。また、マスクやティールといったテック業界の大物たちも、トランプと一蓮托生というわけではない可能性が高いと八田氏は指摘する。 「バイデンが大統領選撤退を表明してハリスとの対決が決まり、世論調査で拮抗が伝えられると、マスクはトランプへの献金について『そんなに多額ではない』などと軌道修正とも取れる発言をしています。これは要するに『勝ち馬に乗りたい』というのが彼らの行動原理であって、トランプが負けるなら一緒に沈む気はないということだろうと私は理解しています。 その大きな理由は、彼らのビジネスが今やアメリカ政府との関係抜きには成立しないという事実です。 ティールのデータ分析企業パランティア・テクノロジーズは国防総省などと大量の契約を結んでいますし、マスクのスペースXもNASA(米航空宇宙局)が主要取引先。つまり、大統領選の段階でどちらかの陣営に完全にベットしてしまうと、反対陣営が勝ったときに困ったことになるわけです」 これは見方を変えれば、かつては新興の成長産業だったテック業界が巨大化し、ある意味で「権力」側になりつつあるという構造変化がもたらしたものでもある。 「共和党の基本路線は規制緩和と減税で、要するに大企業や金持ちのための政党です。その意味で、巨大化した業界の一部のトップが近づこうとするのは、それほど不自然なことではありません。 それともうひとつ、身もふたもない見方ですが、私は"中年の危機"という側面もあるのではないかと感じています。インターネット業界の大物たちが20代で世に躍り出たのは1990年代から2000年代初頭で、当時は多くが反権力のにおいをまとっていた。 ところが彼らも50歳前後になり、お金を持ち、守るものも増えた。そして、やることなすことうまくいっていた当時のような"上り坂感"はもうない。つまるところ、これは"利害"と"加齢"の問題であるとの見方も案外成立するのではないでしょうか」 スーパーリッチにも中年の危機? ともあれ、発信力のある彼らの動向は11月の大統領選投票日まで大いに注目されるはずだ。 写真/時事通信社