テック業界とトランプの「異常接近」はなぜ起きたのか?
「基本的にはトランプがどうこうというより、反バイデン政権の意味合いが強いと私はみています。 最近はAIの話題が世界を席巻し、テック業界全体が華やかに見えますが、実際のところ業界は一昨年頃から成長がやや頭打ちになりつつあります。AIは"面白いおもちゃ"ではあるものの、巨大な利潤を生む見込みは立っていませんし、ほかに成長分野といえば、パッと思い浮かぶのは仮想通貨やブロックチェーンといった『ウェブ3』と呼ばれるジャンルくらいでしょう。 しかし、ヨーロッパはAIや仮想通貨に厳しい規制をかける方向に進み、バイデン政権も技術の安全性に対する疑念や独占禁止法の適用などでこうした分野への規制を強めつつありました。 例えば、共同創業者ふたりがトランプ支持を表明したVCのアンドリーセン・ホロウィッツは、ウェブ3分野に多額の投資をしています。当然、この分野がコケたら困るわけで、少なくとも仮想通貨については規制を緩和すると明言しているトランプに勝ってもらったほうが都合がいいというのはあるでしょう」 新たに民主党の大統領候補となったカマラ・ハリス副大統領も、大筋ではバイデン政権の路線を踏襲することが予想される以上、彼らがトランプを支持する理由のひとつは、自らの利益を守ろうとするわかりやすいロビイングだと考えていいだろう。 ■マスクはトランプに完全ベットできない ただし、その背景には単なるカネの話にとどまらない"感情の問題〟もありそうだ。八田氏が続ける。 「16年の大統領選で大々的にトランプを支援したティールの著書のタイトル『ゼロ・トゥ・ワン』に象徴されるように、彼らの中に"0から1を作れるやつが一番偉い"という意識があることは間違いありません。 また同様に、世の中はテクノロジーのおかげでどんどん良くなっているというテクノ・オプティミズム(技術楽観主義)も彼らの特徴です。要するに、自分たちはシリコンバレーをゼロから世界のテクノロジーの中心にしたんだ、自分たちが世界を変えているんだ、自分たちは特別なんだ、と。 こうした考え方は、規制やメディアへの不信感につながります。例えば『ヨーロッパは市場の大きさをいいことに規制を押しつけてくるが、自分たちではグーグルもマイクロソフトも作れない』とか、『政界では技術を知らない人間が規制を作り、メディアでは技術を知らない人間がテックラッシュ(大手テック企業への反感)をあおっている』といった具合です。 かつて大手メディアがアジェンダセッティングを握っていた時代には、建前であっても民主主義や公平・公正を自明のものとして発言しなければまともには取り合ってもらえませんでした。しかし、SNSなどで個人が発信権を握るようになり、こうしたあけすけな本音をそのまま出せる時代になったことの影響もあるでしょう」