【インタビュー/後編】家のローンと更年期で汗まみれの頃に大ブレイクした高畑淳子さん
そんな不調にもめげず必死にこの役に取り組んだのには、実はわけがあって。 「郊外に小さな建売住宅を買ったばかりだったんです。大きな買い物ですけど、半年続く連続ドラマのレギュラーが決まっていたので、そのギャラをあてにして思い切って買いました。ところがそのドラマがある事情で中止になってしまって。切羽詰まって『どうしよう?』と。 そこからは『どんな役でもやります!』って、宝石を買いに来る客Aとか、ちょっとしかでてこないお母さん役とかを次々にゲットして、“ワンシーン荒らし”って言われたくらい(笑)。 ちょうどその頃、『白い巨塔』の教授夫人役が二人、まだキャストが決まってなくて、どちらかやらせていただけるかもしれないというのを聞きつけまして。 『はいはいはい!』って手を挙げたら、『どっちにする?』と聞かれたので、『出番の多いほう!』って(笑)。ですからもう、汗をだーっと流しながら頑張りました(笑)。 本当は最初ちょっと出るぐらいの役だったのが、なんだか好評で、あとまで出していただけたんです。 ただ所属していた劇団にはすごく怒られました。実はあの役、25年前に田宮二郎さんが主演された『白い巨塔』(1978年)で、青年座の創立メンバーの女優さんが品良く演じた役だったんです。なのに私があんなふうに演じたものだから『もうちょっと落ち着いて演じなさい』って、いろんな人に叱られて。 でもあの役が好評だったおかげで、私という俳優を認知していただいた。なんか面白い人として、バラエティ番組にも呼んでいただけるようになったんです」 ツラくて大変だったはずなのに、笑えるエピソードにしてくれた。それからの50代、60代、いちばんの変化は? 「台詞覚えです。台詞の入り方が、千倍遅くなりました。 台詞を覚えるために私、紙に書いて壁に貼りまくって覚えるんですけど、長い台詞がある役だと壁中が文字だらけで、『耳なし芳一』みたいな家になっちゃう(笑)。 しかもいったん役に入ると、頭がほかのことを受け付けなくなるんですね。忘れ物、落とし物、なくし物が多くて。娘には『お母さん、5秒前に言ったことを忘れているよ』って、よく言われます。 お芝居に入るともう、99.9%そっちに行っちゃうので、残りの0.1%でかろうじて生き延びているような感じです」 それでも、できるだけ長く俳優の仕事は続けたい。だから。 「人間ドックに行っています。年に1回、MRIで体を輪切りにして全部撮って、でも消化器系は写らないので無痛の胃カメラも飲んで。今のところ『脂っぽいものやお酒は控えめに』と言われる程度で済んでいます」