”最新の生活時間モデル”で紐解く初期ヒト族の”道徳的変革”…「全員の利となる公益を優先する」人類の協調はこうして始まった!
原始の生物に欠かせないもの
最新の生活時間モデルを用いることで、この初期ヒト族の社会生活をひもとくことができる。当時の環境で生存を続けるために、結局のところ霊長類は(ほかの生物も)3つのことをしなければならなかった。 食べ物の調達、休憩、そして社会的な団結だ。 はるか昔の当時の生活環境がどんなものであったかを大ざっぱに理解し、特定の種が日中(夜は除外)のどれほどの時間を利用できていたかがわかれば、グルーミング―霊長類が社会的な結束を強めるために行う毛づくろい行動―を通じて維持できる集団の最大定員数を特定できる。これだけの時間をエサ探しに費やし、これだけの時間を休憩していたなら、集団の結束のために費やせる時間はこの程度だったに違いない、という計算だ。どうやら当時は、20人以上の集団が維持できるほどの時間は残されていなかったようだ。 では、人類の祖先にとって、なぜ社会生活が重要だったのだろうか?協調能力が不可欠になった理由は?この疑問に答えるには、アフリカ大地溝帯の形成で生じた気候と地形の変化に注目する必要がある。
社会生活が重要な理由
人間の道徳にとって最初の根本的変革が起きたのは、道徳が発明された瞬間だったと言える。動物は、ほとんどどの種も、集団の維持を目的にした行動をとる。 魚の群れは、耳には聞こえないリズムに霊的に従うかのように同調した動きを見せる。ミツバチやアリなど社会生活を営む昆虫は完全分業制を敷き、個体は巣やコロニーのために自己を犠牲にする。人間の道徳の基礎となった協調の形態は、個人の利益を犠牲にしてでも、全員の利となる公益を優先する点が特殊だ。 協調の始まりが人類にとって最初の道徳的変革だった。なぜ協調したのか?気候と地形が変化したからだ。 密林が広々と乾燥した平地に変わったため、人類は特殊な協調能力を手に入れた。人間の生活様式がチンパンジーやボノボのそれとまったく違う点も、同じ理由で説明できる。気候の変化を免れた人類に最も近い親戚として、チンパンジーやボノボは中央アフリカ・コンゴ川周辺の密林で生活を続けたため、まったく異なる淘汰圧力にさらされていた。 一方、私たち人類のほうは環境が不安定だったことに加えて、いまだ危険な猛獣の脅威にさらされていたので、そのような弱みを補うために、互いに守り合う必要に迫られていた。そして、集団をより大きく、団結をより密にすることで、強さと安心を得たのだ。最も知性の高いサルを500万年の期間、広々とした草地で暮らすよう強制すると、私たち人間に進化するのである。
ハンノ・ザウアー、長谷川 圭
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