母を連れてはとバスツアーに行ってみた!座席はきみまろ公演状態。程よい疲れの旅の最後には不思議な一体感が
◆行きたいところに目星を さて、バスは進み、鶴岡八幡宮が近づいてきた。 東京からどうやって進むのかと見ていると、高速を降りて、狭い山道をぐんぐん進んでいく。いつも私が通るコースは電車や江ノ電、ロケバスで海沿いから向かってくるので、このルートは新鮮だった。 途中、バス同士が出会ってしまい、こちらのバスがくねった山道をバックするという事態にも見舞われたが、さすがのドライビングテクニックで切り抜けた。この瞬間、目的地が近づいてテンションの上がる乗客たちから、拍手が起こる一幕も。 さて、目的地はほとんどが1~2時間設定の観光である。ここで注意したいのが、そこそこの下調べは必要だということ。バス内で簡単なガイドペーパーは配られるけれど、距離の間隔を把握していないと、集合時間に遅れることになる。この日のコース、私が鶴岡八幡宮、鎌倉小町、大仏、長谷観音までは何度も行った経験があるので、母を迷わせることなく案内ができた。 ただネックは江ノ島にあった。ここはヨットハーバーで撮影をしたことしかなく、神社や観光は初体験。なんとなくネットの観光案内はチェックして「縁結びに効果があるのね」くらいは、予習したが、なんとなるだろうと、突然のケセラセラ精神を発揮。が、当日は珍しいほどの強風で、海が荒れまくっていて歩きにくい。目的にしていた海苔羊羹の店も、バスの駐車場からはるか遠くと現地で気づいて、あきらめる羽目に。 そのうえ、この土地には鳶が多かったことを、現地で知る。観光客が手に持つ食べ物を狙い、超低空飛行で襲ってくる。私もこの被害に遭ってしまい、江ノ島神社で悲鳴を上げた。この世の動物で、鳥類が一番苦手なのに、まさか鳶と至近距離で目を合わせることになろうとは……。敵が来ることを下調べさえしておけばと、自分を恨んだが、母と「良い思い出」だと笑った。
◆ガイドさん、ありがとう 最終的にバスツアーの何がすごいかって、ガイドさんの力である。 前述したけれど、旅行における幹事、仕切り屋とは本当に面倒くさい。そのすべてを担ってもらうのが、彼女たちだ。この日の担当ガイドさんは、いわゆるベテランガイドさんで、話し方も対応も穏やかだった。朝8時、眠そうな乗客を相手にしながら、 「右手にうっすら見えるのが富士山ですね。さあ、これからあのレインボーブリッジを渡ります」 と、終始押しつけがましくない程度の笑顔をキープ。老夫婦が「前の席がいい」といえば、すかさず調整。集合時間に遅れる客がいても態度を変えず、私たちにも「お待たせして申し訳ありません」と謝罪。この日は大したトラブルはなかったけれど、他ツアーでは辛酸を嘗めるような思いもしているはずだ。小中高生の遠足や修学旅行で、さんざんお世話になっていたバスツアーはずなのに、彼女たちのケアに気づきもしなかったガキンチョだったこと、どうか神様お許しください。 帰路のバス内は乗客が1日中遊んで疲れて寝るか、興奮気味のまま喋り倒すかの二手に分かれていた。聞こえてくる会話のほとんどは、夫と子どもの文句ばかりというのが、改めて参加者の年齢層を感じさせる。ただ都内の電車内のように、無心になってスマホをいじる姿はなく、各々に窓越しの景色を楽しんでいた。これも旅行の醍醐味。 ガイドさんはゴールの東京駅が近づくと、寝ている人を起こす目的も含めて、再度、案内を始める。 「右手をご覧いただくと、皇居をバックにした結婚式の前撮りカップルがいらっしゃいますね。そしてご覧ください、期間限定のアイススケートリンクもございます。今日1日いかがでしたか?」 出発時はガイドさんの案内に耳を傾けていなかった参加者が、終盤にもなると、全員が案内通りに窓をほうを向く。そして拍手と歓声。この一体感、ああ、なんだか箱根マラソンのクライマックスのようにドラマティックじゃないか。今日、見ず知らずの40人近くが最終的に“和を持って尊しとなす”となれたのは、ガイドさんの功績は大きかったと感じたところで、1日は終了。さて次はどこを旅しようか。宿泊つきプランもいいなあ。
小林久乃