イスラエル、停戦持続に懐疑論 ヒズボラは態勢立て直しへ ガザ収束は見えず〔深層探訪〕
イスラエルとレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの停戦が27日、発効した。大打撃を受けたヒズボラは態勢の立て直しに注力するとみられるが、イスラエルのネタニヤフ首相は「合意違反があれば攻撃する」と表明。イスラエル国内では停戦状態の持続に懐疑的な見方が強い。ネタニヤフ氏は今回の停戦を、ヒズボラと関係が深いイスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザで拘束する人質の解放につなげたい考えだが、ハマスも態度を軟化させるかは不透明だ。 【写真】28日、レバノン南部ナバティエで、崩れた建物の前を歩く男性 ◇勝者はいない 「ヒズボラは1年前と同じではない。何十年も後退させた」。ネタニヤフ氏は26日のテレビ演説でこう宣言した。同氏は、ヒズボラの最高指導者だったナスララ師の殺害やインフラの破壊などを挙げ、圧倒的な「戦果」を強調した。 レバノンの政治アナリスト、サーキズ・アブゼイド氏は、軍事的な損失やレバノン国内での政治力低下がヒズボラを停戦合意へと向かわせたと指摘。ただ、ヒズボラは武器を製造する能力を残しており、合意履行状況の監視を受けても「抜け道はある」と語った。 イスラエルの世論調査では、国民の半数がヒズボラとの戦闘で「決定的な勝者はいない」と評価している。ヒズボラは依然、ドローンなどの兵器を保有。避難を余儀なくされたイスラエル北部住民の「安全な帰還」という目標の達成には程遠いと見ているようだ。 合意違反があれば、戦闘再開の可能性がある。国民の58%は、数カ月以内に停戦状態が終わると悲観している。 ◇トランプ氏の影 それでも妥結した理由について、ネタニヤフ氏は「兵士の休息と武器の補給」を挙げた。ガザでの作戦も長期化し、兵士は疲弊。補給に遅れも出ている。難敵ヒズボラとの停戦により、ハマスやその後ろ盾イランへの対処に集中する狙いがある。 米紙ワシントン・ポストは、イスラエルがレバノン停戦を、来年1月に就任するトランプ次期米大統領への「贈り物」として実現を急いでいると報じていた。「戦争を終わらせる」と公言するトランプ氏の意をくむことで、ガザでの戦闘を巡り、国際社会で孤立する自国への支持を得る思惑もありそうだ。 レバノンでの停戦により、ヒズボラとハマスの共闘関係はひびが入った。ハマスを孤立させることで、人質の解放交渉を優位に進めることができるとの見方がネタニヤフ政権内にはある。 停戦交渉でハマスはイスラエル軍のガザ撤退と恒久停戦を求め、イスラエルは拒否し続けてきた。ハマスは27日の声明で、ガザでの停戦実現へ「あらゆる取り組みに協力する」と表明する一方、従来の主張を繰り返した。ハマスの基本的な姿勢は変わっておらず、停戦に向けた道筋は見えないままだ。(カイロ時事)