トヨタの勝田貴元が語る『ペースノートを誤解』のウラ。マシンは2年抱えた課題が改善/WRCギリシャ
9月5日(木)から8日(日)にかけて行われたWRC世界ラリー選手権第10戦『アクロポリス・ラリー・ギリシャ』に出走した勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)は、ラリー序盤のスペシャルステージ(SS)3にてクラッシュしてしまい、最終的に総合30位で大会を終えた。 【写真】勝田貴元/アーロン・ジョンストン組のペースノート マシンを破損するクラッシュが起きたSS3について、後日のチームリリースにて『ペースノートの情報を誤解してしまった』との理由を明かしていたが、実際にはどのような状況だったのだろうか。 大会終了後、日本のメディア向けに開かれたリモート取材会にて勝田に聞いた。 ●ラリーで大切なコミュニケーション。“シャープ”と“ベリーナロウ”が抜けていた 「これまでは、聞き間違えてクラッシュに繋がるということはなかったです。インフォメーションを聞き逃して、あとから聞き直すということは一大会に一度ほどの頻度であるのですが、それはどのドライバーでも結構あることだと思います」と話し始めた勝田。 これまでにはほとんどなかった状況だったというが、今回SS3で起きてしまった“誤解”について、その時の意識の流れを次のように振り返った。 「まず、中高速の右ロングコーナーを走っていて、レッキの時点では『Very Long/ベリーロング』と情報を入れていたのですが、実際にラリーカーで走った時には『Long/ロング』ぐらいに感じる、といった流れがありました」 「その時に、『2走目に向けてこれは修正しないといけないな』と考えました。基本的にラリーというのは、次のコーナーについての情報を、手前のコーナーでコドライバーに読んでもらいながら走るのですが、おそらく自分がさっきのことを考えている間に、次のコーナーについてのインフォメーションを聞き逃してしまったのだと思います」 「具体的には、実際は『3 Left/スリーレフト、Sharp/シャープ(鋭いコーナー)、Very Narrow/ベリーナロウ(とても狭い路面幅)、Open/オープン(開けた路面)』というコーナーだったのですが、そのうちの“シャープ”と“ベリーナロウ”が、おそらく右コーナーのインフォメーションの修正を考えている間に抜けてしまったのではないかと。」 『スリーレフト、シャープ、ベリーナロウ、オープン』というのは、『スリー』(コーナーの程度の表す数字で、少ないほどキツい)の左コーナーに鋭く入り、道幅の狭い頂点を抜けて立ち上がりで開けるという特徴を示すものと思われる。 そのなかで『シャープ、ベリーナロウ』が抜けてしまうとなると、想定するコーナーは道幅が広く開けたものとなり、比較的速度域が高くなってしまう。 これは、実際は狭いコーナーに対して、広い道幅を想像しながらラリー1マシンのスピードで入っていくという、かなり恐ろしい状況だ。急な崖も多かったWRCギリシャだが、今回のコーナーは深い林道のもので、結果的にアウト側の木にマシンの右リヤをヒットするだけで収まったのは不幸中の幸いだろう。 ●セッティング面では大きく進歩を実感した勝田 今回のミスを「コドライバー(アーロン・ジョンストン)にミスがあったというわけではなくて、完全に僕が認識を間違えてしまった」と戒める勝田は、このクラッシュでデイリタイアとなった。そして、二日目以降のステージは先頭の“掃除役”として走ることになってしまい、ライバルと直接タイムを比べることができないほど苦しい路面状況での走りを強いられた。 今回の勝田は、シェイクダウンで2走目にトップタイムをマークし、初日のSS2では「そこまでプッシュしたわけではない」なかでステージウインをあげるなど、ライバルに対して速さを発揮していた。 それだけに、SS3での停車はかなり辛いものであったことが想像できるが、これまで2度の総合6位がベストリザルトとなっていたWRCギリシャでの好調について勝田は、「セッティングの面で大きく進歩していた」と理由を分析する。 「ギリシャは高速のフィンランドと違って道が荒れているので、自分の行きたいラインを走るというよりも、有るラインをそのままフォローするしかないというようなラリーです」 「過去2年走ったなかでは、とくにリヤのトラクションについて悩んでいたのですが、テストの時点からいろいろなセットアップを試せたおかげでそれが改善できていました」 「それが自分にとっても大きく自信に繋がっていました。サルディニア(第6戦イタリア)でも同じような感覚だったので、今年は荒れた路面のラリーに対していろいろなポイントが見つけられたと思っています」 シェイクダウンとデイ1では、マシン改善を自信にいいリズムで好走を見せた勝田。次戦のWRCチリは今季最後のグラベル(未舗装路)ラウンドとなる。これまで、マシンに対しての課題を着実に解決してきた勝田は、昨年の総合5位を超えるリザルトを残し、続く中央ヨーロッパ大会、さらに地元戦ラリージャパンへ繋がる明るい流れを掴む事ができるだろうか。 [オートスポーツweb 2024年09月10日]