ホタルのオスを「女装」させるクモ、光を操作して別のオスを巣に誘い込みとらえる、研究
何が変化を起こしているのか?
しかし、ホタルの光り方を変化させている要因は何だろうか。傅氏とその研究チームは、クモが何らかの形で毒を使って点滅パターンを操作しているのではないかという仮説を立てた。 しかし、その仮説を裏付けるにはさらに多くの証拠が必要だ。 「全体的にはとても興味深い論文です」とラオ氏は言うものの、「一つだけ、クモが実際に何かをしてホタルの光り方を変えているという点については、まだ完全には納得がいっていません」と話す。そして、「何が変化を起こしているのか」を理解するには、神経生物学的調査が必要だとも指摘する。 「確かに、何かが光り方を変化させているようです」と、米カリフォルニア大学バークレー校の博士候補生で、クモの行動が専門のキャサリン・M・ネーゲル氏も同意しつつ、「この研究で提示された証拠だけでは、具体的に何がそうさせているのかを特定するには不十分です」とメールで書いている。また、「クモの行動が直接関わっているかどうかを判断するにはさらなる研究が必要です」と付け加えた。 次なるステップとして、傅氏とそのチームは「クモの毒がこれにどう影響しているのか」を研究したいとしている。 クモは、擬態や偽装信号を利用して獲物を捕らえることで知られている。たとえばネーゲル氏によると、ほかのクモを狩る一部の種は、狙ったクモの巣を振動させて獲物がかかったと思わせ、相手のクモを自分の方へおびき寄せるという。 「節足動物は、複雑な行動ができない『単純な』生き物だと思われがちですが、そんなことはありません。」とネーゲル氏は言う。「これまで気にも留めていなかった生き物にも複雑な行動をとることは可能であること、そしてクモの行動に関してもまだ学ぶべきことがたくさんあることを、今回の研究やほかの同様の研究は示しています」
文=Gennaro Tomma/訳=荒井ハンナ