ガストロノミーツーリズムの夜明け、世界の食通が日本の田舎に殺到中
美食大国ニッポンの源流と進化 ■ 人里離れた山奥に殺到する外国人 10月22日19時半から放送されたNHK「クローズアップ現代 『美食』が地方を救う!? ガストロノミーツーリズム」は、アジア系女性のジョスリン・チェンさんが富山駅から車で1時間半以上かけて山奥のオーベルジュに向かう様子から始まった。 【写真】富山県南砺市のオーベルジュ「レヴォ」の谷口英司シェフが「レヴォ鶏」と呼ぶ、丹精を込めて飼育されたひな鶏 彼女は上海から5時間以上かけて富山にやって来た。 オーベルジュとはレストランに宿泊施設がついた場所のこと。ホテルは宿泊がメインなのに対し、オーベルジュはレストランでの感動をそのままに眠りにつけるよう、レストランに部屋がついている施設ということだ。 彼女が向かったのは「レヴォ」。 南砺市利賀村に2020年にできたオーベルジュである。 利賀村は雪深い富山県でも一番の豪雪地帯として知られており、1970年代までは大雪が降ると交通が遮断され、自衛隊が上空から食糧を投下するような場所だったという。 人口はわずか400人余り。観光名所はほとんどなく、過疎に悩む限界集落の一つである。 そこに建ったレヴォは、寝室が3つとサウナがついたオーベルジュ。 私も冬に訪れたことがあるが、狭い一本道しかなく、ガードレールがないところもあり、崖から転落する危険性さえ感じたほどだった。 しかし、レヴォに行くにはこれしか方法はない。 レヴォの料理はコースで1人3万円。熊やいのしし、山菜、きのこなど地元の天然食材や谷口英司シェフが「レヴォ鶏」と呼ぶ、丹精を込めて飼育されたひな鶏などを使うだけでなく、什器やインテリアも富山県の作家もので構成されている。 そんな山奥にいま、世界中のインバウンド(訪日旅行客)が訪れている。 彼らの目的は食。つまり、レヴォのオーナーシェフ、谷口シェフの作る料理を食べるだけに、海外から年間1000人もの客が訪れているのである。
■ 今年の訪日客は3500万人を超える可能性 コロナが明けた日本には、猛烈な勢いでインバウンドが押し寄せている。 もともとインバウンドは右肩上がりの傾向を續けていたが、急速に増え始めたのは円安が加速し始めた2013年頃からだった。そして、コロナ前の2019年度は約3200万人と過去最高を記録した。 ところが、コロナ真最中の2021年度は24万人と、ほぼセロまで落ち込んだ。しかし、2022年末からのコロナ対策緩和と並行して急速にインバンドは回復。 2023年度は中国の不景気と福島第一原子力発電所処理水問題で中国からの観光客が回復しなかったため、2500万人とコロナ前の2019年の80%にとどまったとはいえ、今年、2024年度はすでにコロナ前以上の勢い。 9月の訪日外客数は287万人で、1月からの累計で2688万人を突破。 すでに昨年の数字を超えており、このペースでいけば、年間3500万人を超えると予想されている。 岸田文雄前首相は2023年度のインバウンド消費額目標を5兆円と想定したが、フタをあけたら5兆3000億円と3000億円も増加した。 1月から9月までの消費額はすでに5.8兆円となり、このままいけば8兆円を超えてもおかしくない。 昨年の観光消費額は約27兆円だが、その5分の1がインバウンドによるもの。 残念ながら今後国内消費(22兆円)は増えないと予想されるので、仮に国内消費の総額が同じだとしたら、2024年度は4分の1以上がインバウンドによる消費額になる計算だ。 その数字は、ここ数年のインバウンドを対象とした調査でも裏付けされている。