【密着】オーストラリア・メルボルン 経験ゼロから始めた卵農家 家族とともに休む間もなく働き続ける娘に届ける母の想い
今回の配達先は、オーストラリア・メルボルン。ここで卵農家を営むスレイド久美さん(46)へ、岡山県で暮らす父・一哉さん(72)、母・和美さん(73)が届けたおもいとは―。
東京ドーム7個分もの敷地で鶏を放し飼い 1日に産む卵は約3000個
メルボルンから車で約1時間半、トラファルガーにある久美さんの広大なファーム「WILLOW ZEN」。狭いケージの中で飼われる一般的な養鶏場とは大きく異なり、東京ドーム7個分の敷地を柵で区切って、一区画に約500羽ずつ放し飼いにしている。鶏たちは区画の中を自由に歩き回って気ままに草を食べるという放牧スタイル。恵まれた環境で育った鶏の産みたての卵は、新鮮な証拠に白身まで黄色く、食べれば豊かな風味が広がる。 久美子さんはともに卵農家を営む夫のケルビンさん(47)、通称・源蔵さんと3人の息子の5人家族。朝、息子たちを送り出すと、まずは卵集めから仕事が始まる。放牧された鶏は小屋で卵を産むよう特別にトレーニングされており、1日に産む卵は3000個にも。それを毎日1つ1つ手作業で集める。以前、クリスマスの1日だけ集めないでいたら、小屋の内外で卵があふれかえってしまい大損害になったことがあった。その日から「もう二度と休まない」と誓ったという。 9つある鶏小屋から集めた卵は敷地内にある工場まで運ばれ、洗浄やひび割れのチェックを経た後、サイズごとに箱詰めする。17歳の長男を筆頭に、息子たちも帰宅後や休みの日には仕事をよく手伝ってくれている。
きっかけは自分たちが食べる卵のために飼った3羽の鶏
大学時代、留学先の中国で源蔵さんと出会った久美さん。その後、2002年に源蔵さんの母国であるオーストラリアに移住した。そして田舎暮らしに憧れていた久美さんはファームを購入。仕事をしながら趣味としてファームを楽しもうと考えていたが、そのとき自分たちが食べる卵のため鶏を3羽飼ったのが全ての始まりとなった。すぐに草を食べ尽くしてしまう鶏の飼育に悩んでいたときに偶然見つけたのが、移動式の鶏小屋。食べる草が少なくなると、トラクターで鶏小屋ごと大移動して新しい場所に引っ越すというもので、鶏たちはずっと新鮮な草をついばむことができる。そんな方法に久美さんは「これをやりたい」と一目惚れ。農業の経験は全くなかったが源蔵さんも賛同し、2013年、2人で卵農家をスタートさせたのだった。 ただ、今の仕事には満足しているものの、休むことができないため日本には8年も帰国していない。また、親孝行ができていないことも気に掛けている。