半導体製造の人材育成に2億5,000万ドル 米国の熟練労働者育成の取り組み最前線
米国政府が主導、半導体産業の人材不足解消に向けた取り組みが活発化
このように米国では半導体製造関連投資が活況しているが、製造プロセスを加速するにはさらなる人材が必要とされ、現時点では全体的に人材不足となっているのが現状となる。KPMGの2024年世界半導体産業予測では、人材リスクが3年連続で業界最大の課題として挙げられている。 こうした中、半導体産業における人材不足解消に向けた動きが加速の様相を呈している。 バイデン政権は2024年9月、半導体産業における人材不足問題に対応するため、国家科学技術評議会(NSTC)に「人材育成センター(Workforce Center of Excellence =WCoE」を設立したことを発表した。同センターには今後10年間で2億5,000万ドルが投資される。半導体産業が直面する最大の課題が人材リスクであるとの認識が設立の大きな理由だ。 WCoEは、アンプリファイア、シグナルズ、コネクションズの3つのプログラムを展開する。アンプリファイアでは、公正な賃金と労働組合参加の自由を伴う労働者中心の人材開発を推進。シグナルズでは、データと研究を活用して人材の需給動向を追跡。コネクションズでは、NSTC加盟組織のニーズに応じたサービスやイベントを提供するという。 人材育成の具体的な取り組みは、主に大学が主導して実施することになる。WCoEは、7つの教育・技術機関に総額1,150万ドルの助成金を拠出する計画だ。 この助成金拠出を受け、カリフォルニア大学ロサンゼルス校では、アナログおよびデジタルチップ設計の包括的な訓練を提供する「マイクロチップ設計者教育センター(CEMiD)」を設立する計画だ。この計画は、カーネギーメロン大学、ハワイ大学、ノートルダム大学、スタンフォード大学も協力しており、米全土の学部生・大学院生のチップ設計・製造・テストのスキル習得を支援する。また、全国の大学・カレッジの教授陣の育成も行い、プログラムの影響力拡大を目指す構えだ。 一方、アリゾナ州マリコパ・コミュニティカレッジには約180万ドルが割り当てられる。同カレッジは、この資金を活用し、マリコパ加速半導体訓練(MAST)プログラムを立ち上げ、半導体産業向けに300人の技術者を追加育成する計画という。 企業側の取り組みも本格化している。TSMCは5年間で80人の施設技術者を養成する見習い制度に500万ドルを投資すると発表。既に8人の施設技術者見習いが最初のコホートとして参加しており、全員がTSMCの正社員として採用され、18~24カ月にわたる実地訓練と講義を受けることになっている。マリコパ・コミュニティカレッジとアリゾナ州立大学が同プログラムの中核機関として機能する予定だ。また、同社は2024年から他の技術系役職にもプログラムを拡大する計画とのこと。フェニックス地域は米国初の半導体製造見習い制度を持つ地域となった。 半導体をめぐっては、インドや中国などの大国が野心的な動きを見せ、下流工程を担っていたマレーシアも上流工程を目指す取り組みを活発化するなど、国家間競争はさらに激化していく見込みだ。
文:細谷元(Livit)