浜辺美波、赤楚衛二主演「六人の嘘つきな大学生」全員嘘つき! 人を一面だけで判断する恐ろしさを実感 原作ではさらに、さらに騙される この仕掛を小説で堪能すべし!
■原作で小説だからこその仕掛けを堪能すべし!
もちろん尺の問題もあるだろうし、冒頭に「これを映画ではどう表現するんだろう」と書いたように小説という手法だからこそ可能な伏線を映像化するのは難しかったということもあるだろう。むしろ小説には小説の、映画には映画の強みがあるのだから、5人が再会するあの場面は映画ならではの映像の面白さ──小説では表現不可能な面白さが存分に出ていたように思う。人を一面だけで判断することのおそろしさというテーマも、映画から充分に伝わった。 その上で、やはり、これは原作を読んでほしい! 具体的には書けないが、のちに内定者となった主要人物について、原作の重要な要素をふたつ、映画はカットしている。そしてこの重要なふたつの要素は、実は読者にも終盤まで伏せられているのだ。しかしそれが明かされた瞬間、それまでのいろんな場面の持つ意味がいっぺんに逆転するのである。うーん、まどろっこしい言い方しかできないが、ある意味「真犯人は誰か」というメインのサプライズを超えるサプライズが、原作には用意されているのである。そしてそのサプライズこそ、読者が「人の一面しか見ずに判断していた」ことを痛烈に自覚させるトドメの一撃なのだ。 その要素やそこにからむ伏線をすべてカットした結果、映画では、内定者に対する告発の内容は最後まで明かされずに終わった。けれど原作にはそれもはっきり出てくるので、ぜひ原作をお読みいただきたい。そして原作を読んで「確かにこの伏線は映像では難しいな」と思った方は、大沢形画(画)・杉基イクラ(キャラクター原案)によるコミカライズ『六人の嘘つきな大学生【プラス1】』(角川コミックス・エース)・全3巻をお勧めする。ちゃんと絵で出てくるぞ! なるほど、この伏線は映像では難しくても漫画なら可能なのだ。 また、映画でカットされた8年後のインタビュー場面を、映画のキャスティングで脳内再生しつつ読んでいただきたい。NHKの朝ドラ「おむすび」で朴訥な野球選手を演じている佐野勇斗さんがあんなことを! とか、山下美月さんが電車の中でそんなことを! とか、この場面を浜辺美波さんで見たかった、などの意外な行動がカットされたシーンに山ほど出てくるぞ。そんな中、原作のイメージ通りだったのが波多野役の赤楚衛二さん。赤楚さんはむしろ映画の波多野より原作の波多野に近いように思われる。そういう意味でも、推しの役柄をチェックしながら原作のサプライズを堪能すべし! 大矢博子 書評家。著書に『クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座』(東京創元社)、『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』(文春文庫)、『読み出したらとまらない! 女子ミステリーマストリード100』(日経文芸文庫)など。名古屋を拠点にラジオでのブックナビゲーターや読書会主催などの活動もしている。 Book Bang編集部 新潮社
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