浜辺美波、赤楚衛二主演「六人の嘘つきな大学生」全員嘘つき! 人を一面だけで判断する恐ろしさを実感 原作ではさらに、さらに騙される この仕掛を小説で堪能すべし!
■時系列で見せる映画と、ふたつの時代を行き来する原作
5人の元大学生が再びあい見えると書いたが、ここが原作と違うところだ。原作では彼らが再会する場面はない。そのかわり、「その後の彼ら」は別の方法で紹介される。最終選考の進み具合が描写される途中で、8年後の彼らに誰かがインタビューしている様子が差し込まれるのである。 まずは企業の人事担当者だ。8年前の選考の結果内定者となった人物が、当時の人事担当者の話を聞いているらしい。この時点では、インタビューをしている内定者が誰なのかは明かされない。ただ、現在は会社のエースとして活躍していることが仄めかされる。そしてもうひとつ、ここで名前は伏せたまま、あのときの犯人は亡くなったことが伝えられるのだ。 以降、ディスカッションの最中に怪文書が発見され、皆の悪事がひとりずつ暴露される。その都度、8年後に内定者がその人物を訪ねて行って、当時の告発についてどう思ったか、あれは事実だったのかを聞いて回るインタビューが差し込まれるのだ。それが繰り返されるうちに、消去法で犯人と内定者が絞られていくという方法をとっている。 原作ではこの8年後のインタビューが実に効果的だ。読者はそれまで、6人の大学生たちの人となりをおおよそ掴んだ、と思っていたことだろう。リーダーシップのある九賀、バランサーの波多野、データ収集に秀でた森久保、ムードメーカーの袴田、語学と人脈の矢代、洞察力の嶌。明るい人、無口な人、真面目な人など、それぞれの性格も著者はわかりやすく伝えている。ところが怪文書により、そのイメージがぶち壊される。登場人物だけではない、読者もまた裏切られた気持ちになる。そして8年後、現在の彼らのインタビューは、彼らがどんな人間なのかをさらに如実に炙り出すのだ。 いやあ、これがね、上手いのよ。テクニカルなのよ。就職活動という一種特殊な場から解放されて8年、それぞれの今の生活もしっかり固まっていて、距離を置いて過去を振り返ることのできるタイミングで「あの頃の自分」と「今の自分」を語る。怪文書で起きた混乱で読者は「おまえホントはそういうヤツだったのか!」と裏切られるわけだが、この未来のインタビューで再度「おまえそういうヤツだったのか!」を突きつけられることになる。 だが、これこそが原作者・浅倉秋成の企みなのだ。このインタビューにとんでもない伏線が詰まりまくっているのだ。ところがインタビューが映画ではまるっとカットされており、ここの仕掛けはすべて映画には使われていなかった。それはそれで仕方ないとは思いつつ、いやあ、実にもったいない! このインタビューひとつひとつに騙しや意外な真相が入っていて、これらがあったからこそ後のサプライズとテーマのメッセージ性が何倍にも膨れ上がるのにーーーー!
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