「俯瞰するって、むしろ大人ではない」“エンタメ鑑賞タスク化してる問題”に佐渡島庸平が一石
人は、「油と砂糖」を求めている。今は“つくり手も受け手も混乱している時代”らしい
天野 インターネットによって、「以前に比べて、受け手側が冒険しなくなっている」って、編集者として感じることってありますか? 佐渡島さん 人間そのものが変わっているとは思わない。 …世間の人が無意識で求めているものは、「興奮」なんです。たとえば、今、世の中で流行っているチェーン店は何を売っているのか? 油と砂糖を売ってるわけです。 動物として、昔足りなかったものを本能的に求めてるわけですね。それは興奮につながる。 現代は世の中に「興奮につながるもの」がたくさん提供されていて、本能を刺激されて過剰摂取して太っちゃう。 TikTokとかYouTubeも、「これ見ないと損!」というコンテンツが多くて、人の不安を煽ることが産業になっている。「いい学校行かなきゃ人生すべて終わっちゃうかも」「子どもの教育は幼稚園のうちに決まる!」とかね。 天野 興奮に訴えかけるコンテンツが増えているとしたら、「ヒット作品」の質も、昔とは変わってるんじゃないかと思うんですが…どうですか? 佐渡島さん 質というより、今はコンテンツの数とそれに触れる時間が飛躍的に増えたんだと思います。 昔から人々は興奮を求めていたんだけど、コンテンツの量が少なかったから、一部のものに集中していた。 「巨人・大鵬・卵焼き」っていう言葉がありましたよね。「巨人・大鵬・卵焼き」も、何かって言えば「興奮」でしょ。 天野 たしかに。 佐渡島さん ただ、そのなかでも若いクリエイター、新しいクリエイターは、往々にして「刺激的なもの」をつくりたがる。 そして、新しいメディアが生まれると、新しいクリエイターが生まれる。 天野 だから、刺激的なもの、人を興奮させるものが多く生み出されている… 佐渡島さん マーシャル・マクルーハン(メディアに関する理論で著名)は「メディアはメッセージである」と言っている。そして、メディアが変わるごとにコンテンツの種類も変わると。 メッセージの在り方も変わる。 インスタ、X、YouTube、TikTokなどによってコンテンツの種類はまったく異なるじゃないですか。 天野 えーっと…SNSによって、アルゴリズム的に評価されるものが違うっていう話ですか…? 佐渡島さん アルゴリズムだけじゃない。メディアごとにつくられるものも、つくるクリエイターも変わる。 CM、テレビドラマ、映画も全部動画だけど、クリエイターは違いますよね。「動画なんだから一緒じゃん?」とか言って、CMをつくってる人に「映画撮ってよ」とか言ったら、「お前わかってねえな~」って言われちゃう。 現在、新しいメディアがたくさん生まれて、その議論が起きちゃってるんだと思います。 新しいメディアについて、誰も解像度高く見ることができていない。 天野 あー、新しいメディアが生まれて、受け手の受容の仕方も混乱しているってことなのかな… 佐渡島さん そうだと思います。それに、基本的に新しいメディアだと、誰が作っても幼稚なものになるんですよ。 次第に洗練され、熟成したものが登場してくる。俳句とかね。 最近、作家の岸田奈美とディスカッションをしていたら、岸田さんが、「季語マジすごいです!」って興奮してたの。 「みんなが好きなハッシュタグの最強ワードだけを集めて歴史的に残ったものが季語なんです。マジすごい」って言っていて、たしかにと。