真由子、「津川雅彦長女誘拐事件」を語る 「記憶なくトラウマなし」も犯人釈放時は「外出許されなかった」
生後5か月で自宅から連れ去られ、千葉県の犯人宅から無事保護
東京・赤坂にライブレストラン「MY one and only」をオープンさせた俳優で歌手の真由子(50)は津川雅彦さん(享年78)と朝丘雪路さん(享年82)を両親に持つ。生後5か月の時に世田谷の自宅から誘拐され、1973年当時、「津川雅彦長女誘拐事件」として大きなニュースになった。真由子が、誘拐事件とその後を語った。(取材・文=平辻哲也) 【動画】津川雅彦・朝丘雪路の一人娘…真由子がロックに乗せ「深水流」基礎舞踊を披露 昨年8月には50歳を記念したライブを開催した真由子。ライブでは自ら誘拐事件のことに触れ、「私は0歳で誘拐されたからメディアでデビューして50年なんです」と明るく振り返ってみせた。「私には一切、記憶がないので、トラウマにもなっていないんですよ」と語る。 事件は1974年8月15日、自宅で起こった。生後5か月の真由子は23歳の男に拉致され、身代金500万円を要求された。雅彦さんはその日のうちに150万円を男の偽名口座に振り込んだ。当時の銀行システムでは、口座からの身元、引き出しの店舗の特定などはできなかったが、銀行側が突貫工事でオンラインシステムを更新したことで、引き出し店舗を特定。それが犯人確保につながり、真由子は千葉県我孫子市の犯人宅から41時間ぶりに無事に保護されている。 真由子が事件について知ったのは、中学生になった時だったという。 「私はまったく知らなくて、周りから聞かされました。父に聞いたら、『そうだよ』って。小さい頃から、帰宅時間など厳しかったのは、確かです。学校の行き帰りには必ず送り迎えがありました。でも、『箱入り娘だからね』とくらいにしか思っていなかったんです。事件を知ってからは、それなら仕方ないかなと思ったりしましたが、『それにしても、厳しすぎる』と父に怒ったこともありました。父は『お前は鉄砲玉だから』『オレの気持ちもしらないで』と言っていました」と振り返る。 津川さんは事件以降、真由子の身辺警護には徹底して、気を使っていた。 「一番厳しかったのは、犯人が出所してくる時期でした。犯人が謝罪したいと警察に申し出たそうですが、父は『ふざけんな!』と怒っていました。私は高校生で、一番遊びたい時期でしたが、その時は学校の通学以外、出かけることは一切許されなかったんです。犯人は獄中から手紙を送ってきて、父はそれを持っていたようです。ネットで事件を調べたこともありますが、トラウマになっていない分、自分ではない話を見ているような感覚でした」 心の傷として強く残っていたのは、雅彦さんだった。73歳だった2013年には北朝鮮による拉致問題の早期解決を訴える啓蒙ポスターにも協力。「親の愛は、世界を動かす。拉致問題は、私達すべての問題です」との言葉とともにイメージキャラクターも務めた。公の場でも、娘への溺愛ぶりを隠すことはなかった。真由子には23歳から付き合っていた俳優・友山裕之助(51)が3度結婚の許諾を求めたが、23年間断っている。津川が2人の結婚を許したのは最晩年の18年6月のことだ。 「私も、声を大にして言えるぐらい、お父さん子でした。今でも、胸を張って言えるぐらい大好きでした。私が一番ショックだったのは、父が死んでも、普通に生きていけていることです。自分では、生きる気力もなくすぐらい抜け殻になっていると思っていましたから。そうならなかったのは、主人のおかげです。結婚式をめぐって、父と大ゲンカした時も、仲を取り持ってくれました」 真由子は18年4月27日に母・朝丘さんを、同年8月4日に雅彦さんを相次いで亡くした。 「父との思い出はありすぎるくらいなんですが、母との思い出はあまりなかったんです。母は仕事一本の人でしたから。でも、母とは病気(アルツハイマー型認知症)になってから、いっぱい良い時間を過ごすことができました。(晩年は)しょっちゅう母と一緒にいたので、父がやきもちを焼くくらいでした。父は『お前は雪会(朝丘の本名)のことをあんまり好きじゃないと言っていたのに、なぜそんなに面倒を見るんだよ』と言っていました(笑)」 朝丘さんは病気を患いながらも、真由子のことを忘れた瞬間はなかったという。 「母は昔から天然な部分がある人だったので、それが少し進んじゃったのかな、と思うくらいでした。父との関係性は新婚当初か、と思えるくらいラブラブでした。見ているこっちが気持ち悪くなるくらい(笑)。父が出かける時には、起きてきて、『いってらっしゃい』とチューするんです。私が物心をついた頃は、寝室も別々。生活時間帯、起きる時間もバラバラだったので、そんな風景を見たことがなかったんです。母は自分のライブのビデオを見て、歌ったり、『この人、歌うまいわね』とか言うんですよね(笑)」。昨年は、両親の七回忌を迎えたが、その思い出は消えることない。 □真由子(まゆこ)1974年3月18日、東京都生まれ。俳優・津川雅彦と女優・朝丘雪路の一人娘。幼少期から日本舞踊や三味線を学び、インターナショナルスクールで教育を受け、英語も堪能。1998年に女優デビューし、NHK大河ドラマ『功名が辻』、NHKBSプレミアム『子連れ信兵衛』シリーズ、映画『次郎長三国志』などに出演。音楽活動では『東京エキゾチカ with 真由子』名義でライブを展開。1月10日公開の映画『シンペイ 歌こそすべて』に出演するなど、俳優、歌手として精力的に活動中。
平辻哲也