ロシア語対ペルシャ語・アサド政権下で繰り広げられた周辺国の言語による覇権争い
同じシリア国内でも、北部イドリブのイスラム原理主義過激派の戦闘員は600ドルから800ドルほどの月給がもらえていた。リビア内戦時にトルコが募集した傭兵になってリビアに行けば1000ドル以上もらえた。 イスラム原理主義過激派に加わったかと思えば傭兵になったりする動機は、信仰心や思想や怨恨、怒りなどの動機のみならず、純粋に金目当てという人も少なからずいるのだ。 アサド政権崩壊後、テロ指名手配犯で活動名を「ジュラニ」、本名「シャラア」が率いる暫定移行政府は、公務員の給料を400%上げると発表した。
■イランがシリアでロシアに負けた理由 スンニ派の多いシリア東部地中海沿岸部におけるロシア化政策とイランのペルシャ・シーア派化政策を比較した調査がある。 これによると、イランがシリア内戦時に地中海沿岸部の田舎に開校した宗教学校、「ラスール・アル=アアダム(最も偉大なる預言者)系列小中学校は、生徒の保護者らから寄せられるシーア派化の思想教育に対する苦情がシリア宗教省に殺到したため、シリア文部省の学習指導要領に沿ってないことを理由に2017年に学校が閉鎖させられた。
イラン系学校とロシア系学校の人気度は地域によって異なる。地中海沿岸部では市民が駐留ロシア軍人と接触する機会が多かった。そのため、ロシア軍人相手に商売をするときに役に立つという理由でロシア語を学びたがる人が多かった。 アレッポなどの工商業都市も、ロシア語を学べばロシアに留学して修士や博士号を取れるとか、港湾や飛行場で働いたり、ロシアによる投資でできたシリア国内の産業などで雇ってもらえたりする機会が増すという理由で、ロシア語を学びたがる人が多かった。
それと同じような理由で、シリア北部のトルコ支配地域ではトルコ語が、クルド勢力支配地域ではクルド語学習者が激増した。 2023年の夏の終わり、アサド元大統領夫妻が中国を訪問した。アスマー元大統領夫人は、北京外国語大学のアラビア語学科の学生向けにアラビア語でスピーチを行い、次のように語ったそうだ。 「人々の意識を乗っ取る最短の方法は言語を攻略することで、自律した決定を征服して、社会をずたずたに引き裂き、アイデンティティを失わせます」