それでも彼らは高く飛ぶ -10代ブラジル人の今-
なんて言うんだっけ…外交官?
ムンドデアレグリアの生徒に会った。ジャジソンさん(18)とユウジさん(18)。二人はこう口をそろえた。「宇都宮大学国際学部に入りたい」 宇都宮大の国際学部は、平成28年度入試から「外国人生徒入試」を始める。 「外国籍で、日本国内の高等学校や中等教育学校もしくは外国人学校を卒業(修了)する人を対象にした特別入試」。出願資格として、「日本語能力試験N1」と「英検準2級もしくはTOEICスコア450点以上取得」の2項目クリアがある。 日本語が堪能なユウジさんは「英検準2級の筆記が受かったから後は面接だけ」と言う。「将来は日本とブラジルをつなぐ仕事がしたい。何て言うんだっけ…外交官?」 日本語が得意ではないエイジさん(18)は、「僕はブラジルの大学へ行く」と話す。 同じ学校の同級生とすでに結婚し、一児の父だ。「来年、家族といっしょにブラジルへ帰る予定です」。大学では哲学を専攻したいと話す。だが、ブラジルへ帰ったからといってすぐに大学へ入れる訳ではない。「2~3年は勉強しないといけない」 エイジさんの両親は離婚をしていて、日本では父親の仕事を支えながら学校に通っていた。これからは父親としてエイジさん自身が家族を養う傍ら大学を目指す。
怒らない。だって文化が違うから
岩本直美さんはムンドデアレグリアの体育教師だ。着任直後、日本人との違いに驚いた。 「体育の授業では、まず整列ができません。アクセサリーじゃらじゃらつけて、ガム噛んで、飲み物持参で来るのが彼らの普通なんです」 驚きはしたが、怒らなかった。 「はい、怒りません。だって文化が違うから。日本ではこうなんだ、ということをまずは伝えます」。心が通じ合ってくると、生徒たちは岩本さんにプライベートな相談事をもちかけてくるようになった。「家庭環境が不安定な生徒が多いと感じます。離婚率も高いですし。でも、共通していえるのはどの親も子どものことを愛しているということです」。 生徒も親のことを考えている、と岩本さんは言う。「生徒の中には将来の夢を語ってくれる子がいます。例えば獣医になりたいとか。でも、日本で獣医になるためには相当な学力と大学へ通えるだけの経済力が必要です。それを伝えると、ほぼ全員が夢をあきらめます」 親に負担をかけたくないという気持ちがそうさせるのだと言う。 (この記事はジャーナリストキャンプ2015浜松の作品です。執筆:小野ヒデコ、デスク:依光隆明) ◆小野ヒデコ(おの・ひでこ)1984年生まれ。自動車メーカー、アパレル会社勤務を経て2015年ライターに転身。ジャーナリストキャンプへは「取材の本質を体得したい」と思い参加した。