それでも彼らは高く飛ぶ -10代ブラジル人の今-
進学させたい。可能性が広がるから
ムンドデアレグリアは浜松市西区にある南米系の学校。ここを卒業するとブラジルの高校卒資格を得ることができる。スズキ自動車の人事セクションで日系人採用を担当していた松本さんが資金を調達し、2003年2月に開校した。設立に踏み切った理由は採用で知り合ったペルー人家族に「学校を作ってほしい」と懇願されたこと。旧雄踏町役場の2階に入居し、幼稚園生から高校生まで約200人が学ぶ。 松本さんは設立以来ずっと校長を務めている。きれいごとは言わない主義らしく、のっけから「多文化共生とかグローバルという言葉は好きじゃない」とぴしゃり。「私の軸は4つのキーワード。“お互い理解しようとする→譲歩する→我慢する→あきらめる”です」 でも本音ではあきらめていない。 一般的に、海外の学校で生徒は掃除をしない。しかし、ここでは生徒にさせる。 「習慣になればみな自然とやるようになります。掃除は譲れませんでした。」 その一方で、誕生日ケーキを学校で食べることはOKにした。ブラジル人は誕生日を大切にする文化があるのを踏まえ、15時以降は校内でケーキを食べることを許可したのだ。 力を入れるのは、進学、就職のサポート。今年は大学進学を果たした生徒が2人出た。 その一人、チネンアキヒロさんはムンドデアレグリア高校を卒業した後、4年働いてお金をためた。そのあと再び母校の門を叩き、松本校長らのサポートを受け、東洋大に進学した。直近のTOEICでは930点を取得している。 松本さんがぽつり。「子どもたちを進学させたい。将来の可能性が広がるから」
「浜松モデル」という現実
平成23~26年、浜松市は「外国人の子ども不就学ゼロ作戦」を行った。外国籍の子どもは日本の義務教育の対象にはなっていない。学校に行かせるかどうかは家庭の考え方次第なので、行っていない児童、生徒もいる。それをゼロにしようと考えたのだ。 当時の不就学児童、生徒は推定で727人。市はそのすべてを一軒一軒訪問した。 727人のうち600人以上は浜松にはいなかった。ブラジルに帰ったり、他の地域に転出していたからだ。残り100人のうち、定住外国人家庭の不就学生徒は16人だった。 家族に会い、学校に行けない理由や、どうやったら学校に行けるかの相談に乗った。就学後も日本語学習や外国人学校へのカウンセラー派遣を通して支援を続ける。 「これを“浜松モデル”としています」と浜松市外国人市民センター(U-Toc)の内山夕輝さん(39)が言う。「学齢簿に外国籍児童も載せるようにもしました」 その一方で、最近では新たな課題に直面している。「不就学」ではなく、「不登校」の増加だ。日本の公立学校に通っても、対人関係や学力の問題で退学する児童がいる。その多くはムンドデアレグリアのような外国人向け私立校(月謝1万5千円~5万)に転校するのだが、相性が合わなかったり、経済的な理由で退学してしまうケースが後を絶たない。