インターネットの誤情報に惑わされない「デジタル・ヘルスリテラシー」とは
◇デジタル・ヘルスリテラシー尺度日本語版の開発 これまでにも、インターネット上の健康情報を有効活用するためには、適切に健康情報を検索して収集する能力(=Health 1.0)に対応した「eヘルスリテラシー」(eHL)が必要であると指摘されてきました。パンデミック下でもeHLは、COVID-19に関する知識や予防行動とは正の関連、陰謀に対する信念とは負の関連があると示されています。 このeHLに加えて、Web 2.0で双方向性を持ったインターネットに対応し、自ら情報を発信したり共有したりする能力(=Health 2.0)を含めて評価する尺度として、デジタル・ヘルスリテラシー尺度(Digital Health Literacy Instrument:DHLI)が欧米で開発されました。 私たちの研究では、このDHLIの日本語版を作成し、その妥当性と信頼性について検討しました。社会調査会社にモニター登録をしている20~64歳男女2000人を対象にウェブ調査を実施したところ、いくつかの興味深いことがわかりました。 DHLIは「操作スキル」「情報検索」「信頼性の評価」「適用可能性の判断」「ナビゲーションスキル」「コンテンツ投稿」「プライバシー保護」の7つのスキルをそれぞれ3項目ずつ合計21項目で評価します。 まず、全体として「操作スキル」「ナビゲーションスキル」が高得点で、天井効果(データの分布が満点へ偏っていること)も確認されました。この調査はウェブ調査であるため、対象者に一定のデジタルリテラシーが備わっていることは想定されるにせよ、いまではインターネットの普及から時間が経過し、多くの者が使用自体には問題がないということを示しています。 一方で、情報の真偽等の評価に関係する「信頼性の評価」と、情報が自分に当てはまるかや活用できるか検討する「適用可能性の判断」は比較的低得点であり、双方向性の視点から必要になる「コンテンツ投稿」にも低得点が認められました。これは、ソーシャルメディアで自分が発信者になるとき、情報の見極めや伝え方に関する何らかの指針の必要性を示唆していると考えます。 また、デジタルネイティブといわれる現在の20歳代は50~64歳代よりも「信頼性の評価」「適用可能性の判断」が、40~64歳代よりも「コンテンツ投稿」で高得点でしたが、それでも同じ世代での他のスキルと比較すると相対的に低得点でした。若者はSNSの利用率が高く、自由自在に使いこなしているように思われがちですが、情報の評価・判断や発信の面では必ずしも十分というわけではなさそうです。 さらに個人的に注目したいのは、自分の健康状態について「あまり良くない」「良くない」と回答した者は、「最高によい」「とても良い」と回答した者よりも、全項目で得点が低かった点です。 もっとも、この調査からではDHLが低いことによって健康状態が悪化しているのか、あるいは健康状態が悪いために情報収集や判断に支障をきたすのかといった因果関係については判断できませんが、少なくともDHLと健康状態は関係があるとみられます。 DHLの低さは、健康情報格差につながる可能性があり、適切な対策が必要です。DHLI日本語版は、DHLの向上が必要な対象者や、強化が必要なスキルを特定することができ、また介入の評価指標ともなるので、具体的な支援策の検討に役立つと考えています。