インターネットの誤情報に惑わされない「デジタル・ヘルスリテラシー」とは
◇ネットの間違った健康情報を見極めるポイント では、人々がインフォデミックのような状況で偽・誤情報を見抜き、安易に拡散しないようにするためには、どのような施策が有効なのでしょうか。 行政や自治体には、もちろん啓発活動も広く取り組んでもらいたいですが、なによりも正しい情報を人々に届くかたちで発信することが重要だと思います。たとえばシンガポールでは、2016年のジカ熱流行の際に、保健当局がソーシャルメディアを通じて危険因子やメカニズム、症状、症例報告や政府の対策等の状況を急速に広めたことで、一般市民のパニックを抑えて予防行動にも貢献したことが報告されています。 また、日本は欧米と比べて専門性の高い公的機関ではSNSの活用が積極的ではない印象があります。健康情報については、公的機関、医師や公衆衛生等の専門家が一般市民より先駆けてメッセージを作成し、信頼できる情報源(公的機関や医療機関・専門家など)へのリンクも提供することが偽・誤情報への対策として効果的です。 個人でできる対策としては、チェックリストを使って情報を峻別する意識を身につけておくことです。これは、パンデミックや大規模災害時など、情報が錯綜しているなかで急にはできないので、普段からTIPsのようなものとして覚えておくのがよいと思います。以下にWHOの指針も参考にウェブ記事のケースを想定し、いくつかポイントを箇条書きにしてみます。 ・記事の「見出し」だけ見て判断しない。キャッチーなタイトルと内容はダイレクトに関連しないことがよくあります。とくにウェブ記事はページビューで広告収入を得る場合が多いため、扇情的な見出しになりやすい。 ・誰がシェアしているかだけではなく、記事の情報源とエビデンス(科学的根拠)を確認して信頼性を検討する。この情報源とは媒体名だけではなく、その記事が根拠としている情報のソース(公的機関の発表か関係者のリークか、あるいは科学的データが提示されているか等)を含む。 ・記事が配信された日時を確認する。目にした情報が常に最新のものであるとは限りません。とくにX(旧Twitter)などのフロー型SNSでは日時の確認を見落としがちなので要注意。 ・自分にもバイアスがあると意識する。物事の見方にはどうしても個人の癖や価値観が反映されます。また、インターネットでは欲しい情報を積極的に探索するため、自分と似た意見ばかりが目立って見えるエコーチェンバー現象が起きることも覚えておきましょう。 ・記事をシェアする前にいったん止まって考えよ。人は有益だと感じた情報を善意から他者へ共有しようとし、緊急時は一刻も早くと焦るために内容を精査しません。しかし、偽・誤情報を伝えないことは、素早くシェアすることよりもはるかに他者を守ります。 繰り返しになりますが、COVID-19のインフォデミックは、双方向的なインターネットで大量の情報と向き合うことがいかに難しいかを私たちに突きつけました。正しい情報はときに科学的検証や手続きを要するため、偽・誤情報より初動が遅れることがあります。だからこそ、日頃からデジタル・ヘルスリテラシーを高めておくことが大切なのです。
宮脇 梨奈(明治大学 文学部 専任講師)