日本上陸、Amazonのサウンドバー「Fire TV Soundbar Plus」を聴く
■ ついにAmazonがサウンドバーに参入 AV機器の中でもサウンドバーは比較的手頃な価格で買え、しかも導入すれば効果が高いとして人気の高い商品である。一方でオーディオ規格に左右されやすいという性質があり、新規格が出るたびにドッとハイエンドな新製品が出るが、落ち着いてくると価格競争になるというのがこれまでの流れだ。昨今で言えばDobly Atmos対応が大きな波だったが、それも登場から10年が経過し、現在は落ち着きフェーズに入っている。 【画像】40インチテレビと合わせると、多少左右がはみ出る そんな中、Amazonがサウンドバーで日本市場に参入した。昨年12月16日から発売が始まった「Fire TV Soundbar Plus」は、Amazonブランドとして初めて日本で発売されるサウンドバーとなる。すでに米国では2022年からAmazonブランドからサウンドバーが出ているが、日本では発売されていなかった。 発売発表は11月中旬で即予約開始となったが、プライム会員は12月6日までの予約で発売記念セール価格26,800円で購入できた。その後価格は34,800円となったが、1月3日からセールになり、8日現在はまた34,800円に戻っている。 本格サウンドバーとしては平均的な価格だが、数々のスピーカー製品を展開しているAmazon純正という点で注目度は高い。早速試してみた。 ■ フロント3ch+サブウーファ構造 本体デザインは角を丸めた角柱タイプだが、全長はわりと長い。幅94.2cm、奥行き13.1cm、高さ6.4cmとなっており、40インチテレビの前に置くと少し左右が出っ張る。おそらくテレビのバリューゾーンである50インチに横幅を合わせたのだろう。重量は4kg。 高さが6.4cmしかないので、テレビの前に直置きしても画面に被らない。ただしテレビスピーカーは前面が隠れてしまうので、テレビの音声はすべてサウンドバー側で再生するという前提になる。 あまりテレビにピッタリくっつけてしまうと、テレビ側のリモコン受光部を塞いでしまう事になるので、少し前に出した方がいいだろう。サウンドバーももう少し上位モデルになると、リモコン赤外線のパススルー機能が付いていたりするものだが、本機にはそのような機能はない。 スピーカーとしての構造は、前面のLRとセンターにそれぞれ楕円形フルレンジとツイーターのペアが配置されている。内蔵サブウーファーは2つで、それぞれLRのフルレンジスピーカーがあるあたりの真後ろに、音の放出口がある。 ウーファーユニット自体はフルレンジよりも大きいはずなので、設置位置はフルレンジがある位置を避けてもう少し内側になるのだろうが、低域特性を伸ばすために音導管を使ってそこまで引っぱってきているのだろうと想像する。 本体天面に5つのボタンがあり、電源、入力切り替え、Bluetoothペアリング、音量のアップダウンに対応する。それ以上の操作はリモコンで使用する。 背面には、光デジタル入力、ARC/eARC対応HDMI入力、USB-Aポートがある。USBポートは今のところユーザーが利用できるような機能はない。おそらくサービス用端子だろうと思われる。電源はメガネケーブル直挿しなので、ACアダプタなどはない。 基本的にはテレビ向けサウンドバーで、サラウンド規格としてはDolby AtmosとDTS:Xに対応する。音声入力はテレビのARC/eARC対応HDMI端子と接続する事が前提となっており、ARC/eARC対応端子が無い場合は光デジタルで接続する。ただし光デジタル接続の場合はDolby AtmosとDTS:Xが非対応になってしまうので、可能な限りHDMIで接続すべきだ。 リモコンはFireTV用よりも小型で、ボタンの形状は似ているものの、全体的なデザインテイストはあまり類似性を感じない。 ■ 多彩なサウンドモードとFireTVとの連携 本機はEQという格好で、映画、ミュージック、スポーツ、ナイトの4つのサウンドモードを備えている。それぞれ特徴があり、映画モードは低音重視、ミュージックは割とフラットに近い特性、スポーツは中高域重視、ナイトは低音と高音を抑えるといった特性になっている。 この4モードにプラスして、バスとトレブルが1~9段階で設定できる。デフォルトは5なので、±4ということになる。ダイアログエンハンサーは、音声帯域の明瞭度を上げるパラメータだ。これは1~5まで設定でき、デフォルトは1だ。 本機でもっとも特徴的な機能は、「サラウンドエフェクト」だ。これはステレオ音源に対しても疑似的にサラウンド感を出すという今流行りの技術で、デフォルトでONになっている。 そのほか、音量を一定に保つ「DTS TruVolume」も搭載した。これはデフォルトでOFFになっている。まとめると以下のようになる。 これらの機能の切り替えは、付属リモコンを使って行なう。現在のモードやレベルは音声で通知されるとともに、正面にある5段階のLEDでも表示される。LEDの1つずつが明暗で2段階あるので、合計10段階が表現できる。 入力切り替えなどはLEDで表示されてもわからないので、音声ガイダンスは役に立つ。一方でEQやバスやトレブルといった設定は、1つ上げ下げするごとにいちいち音がダッキングされて音声ガイダンスが挿入されるので、違いが聞き取りづらい。リモコンのミュートボタンを長押しすると音声ガイダンスをOFFにできるので、設定の違いを確認するときなどは臨機応変に使い分けて欲しい。 さてこれでテレビのサウンドバーとしては使えるわけだが、多くの人はテレビ番組を見るためというよりは、FireTVで映画やアニメを見るために導入するものだろう。 テレビにFireTV StickやFireTV Cubeが繋がっている場合は、そちらの画面の設定から「ディスプレイとサウンド」を選択し、その中にある「Fire TV Soundbar Plus」を選ぶと各パラメータが視覚的に設定できる。専用リモコンでは変更したときのみパラメータが把握できるに過ぎないが、FireTV側で設定すれば、「今どうなっているのか」がわかる点でメリットがある。 FireTVでの設定をいじる場合は当然FireTVのリモコンで行なうわけだが、コンテンツの再生に入ってしまうと、そこから先はサウンドバーのリモコンで操作する事になる。ボリュームのアップダウンは、FireTV側のリモコンがテレビのボリュームアップダウンと連動しているので、それで「サウンドシステム」として繋がっているサウンドバーのボリュームが上下する。結果的にはできているんだけど仕組みを考えるとまあまあややこしい関係になっている。 ■ 効果絶大な「サラウンドエフェクト」 では実際に音を聞いてみよう。まず動画コンテンツとして、「ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪」のシーズン2最終話を再生してみた。これはHDR 10+/UHD/DolbyVision/Dolby Atmosと、最新規格フル装備コンテンツなので、テストには使いやすい。 EQは映画モード、バス・トレブルはデフォルトで視聴したが、元々映画モードは特性が低音寄りのこともあって、戦闘シーンの迫力もよく伝わる。低音が足りなければさらに4段階足せるので、多くの人は満足できるだろう。 低音の吐き出し口はサウンドバー背面に向いており、壁などの反射を使って前面へ折り返す設計のようだ。あまりにも背面が空きすぎていると、低音が後ろに抜けてしまうので、低音が足りない場合は思いきってブラケットで壁面に付けるなどしたほうがいいかもしれない。 Dolby Atmos対応とはいえ、上向きのイネーブルドスピーカーはないので、上下方向の空間の広がりはあまり感じられない。一方横方向の広がりは独特で、左右遠く離れるという感じではなく、耳へ向かって回り込んで、耳のそばで鳴るという印象だ。これはこれで面白い。 Dolby Atmosに加えて、サウンドバーの機能である「サラウンドエフェクト」もデフォルトでONになっているわけだが、エフェクトをON・OFFしても音像はほとんど変わらなかった。二重に効果がかかるというわけでもないようなので、これはONのままで良さそうだ。 ダイアログエンハンサーの効果は、かなり高い。やはり独立してセンタースピーカーがあることも大きいだろう。SEは小音量で、でもしゃべりはちゃんと聞きたいという場合には便利な機能だ。なおこの機能は音楽ソースに対しても同じようにかかるので、ボーカルだけ大きく聞きたいという時にも有効である。 DTS TruVolumeは、音量のアップダウンを均してくれる機能だ。本来はダイナミックレンジを正確に再現できるのが外部スピーカーを使うメリットなのだが、急にデカい音が来るようなコンテンツで、小音量で楽しみたい場合に有効である。 EQとして他にも音楽、スポーツ、ナイトモードがあるが、これはそうしたコンテンツごとに使い分けろというよりは、EQの好みとして使い分ければいいのではないかと思う。バス・トレブル設定は1つずつしか変えられないが、サウンドモードは全体がいっぺんにガバッと変えられるというメリットがある。 続いて音楽再生を試してみた。方法はいくつかあるが、一般的にはスマホをBluetoothで繋いでの再生だろう。Bluetoothでの接続ではDolby AtmosとDTS:Xは非対応となることはヘルプページに記載がある。よってAmazon Prime MusicでDolby Atmos対応楽曲を再生しても、空間オーディオとしては再生できないという事になる。 そもそも、Bluetoothで接続した場合の対応コーデックが公開されていない。Androidの開発者モードで接続してみたが、ハイレゾ音源に対してもサンプリングレート41.1kHz/16bitでしか繋がらなかった。コーデックも表示されないので、もしかしたらSBCしか対応していないのかもしれない。 とはいえ、「サラウンドエフェクト」の効果は高く、スピーカーの横幅以上のサイズの音像が楽しめる。ただその効果があるのは正面に位置したときだけなので、うろうろしながら流し聴きするみたいなときには、サラウンド感は得られない。 DTS TruVolumeは、音楽再生時にはリミッターがかかったような音になってしまうので、OFFのほうが望ましいだろう。 FireTV側でもAmazon Prime Musicが再生できるので、HDMI入力での音楽再生もできる。再生側としてはハイレゾ音源も再生は可能だが、再生側が最大48kHz/16bitしか受け付けないようで、このレベルにダウンコンバートされて再生される。これはサウンドバー側が対応しないのか、それともテレビが対応しないのか、残念ながら検証する術がなかった。 音楽再生のビットレートにもこだわりたいという方は、Bluetooth接続でパフォーマンスが高い別のサウンドバーを検討した方がいいだろう。 ■ 総論 26,800円という価格と、Amaozn純正というポジションをどう評価するかという事になると思うが、価格に対する音質的な満足度という点では、及第点が付けられる。つまりコストには見合う音質ではあるが、世の中にはもっと低コストで同等だったり、あと少し足せばイネーブルドスピーカー付きやハイレゾ音源対応だったりするものもあるので、評価としては良くも悪くも「すっごい普通」という事になる。 Amazon純正であるということからすれば、FireTVの設定画面から調整画面へ行けるので、サウンドバー設定用のUIが不要になるというメリットがある。ただそれ以外は本当に普通のサウンドバーであり、スマートスピーカー的な機能があるわけでもなく、Amazon純正である事のメリットはそこまで感じられない。 日本では未発売だが、サードパーティからFireTV機能が内蔵されたサウンドバーも2種類商品化されている。つまりこれ1本で、サービスも含めて全完結するという製品である。せっかくAmazon FireTVブランドでサウンドバーを出すなら、これぐらいインパクトのある製品が欲しかった。 とはいえ、日本に対してサウンドバー初参入ということは、マーケティングとしてまだ普及の余地があると掴んだからなのだろう。ポイントは、これまでサウンドバーを購入するに至らなかった人達をどう振り向かせるかである。まず第1弾は様子見、というところなのではないだろうか。
AV Watch,小寺 信良