ネコを死なせる「よろよろ病」を北米で初確認、野生のピューマで、アジアにも研究者が警鐘
ピューマがよろよろ病と診断されるまで
フォックス氏のチームは、2023年にコロラド州公園野生生物局から依頼を受けてピューマの疾患の原因を調べたが、レントゲンと病理解剖では何も見つからなかった。そのため、より詳細に調べることになった。 ピューマの脳と脊髄は炎症を起こしており、組織が損傷した領域があった。「炎症がひどいと、脊髄はその役割を果たせなくなってしまいます」とフォックス氏は言う。「脳と脊髄と脚を制御する神経の間のどこかで、メッセージが混乱してしまうのです」 炎症を引き起こす疾患はいろいろある。フォックス氏はピューマの死体から採取した試料中に含まれるRNAの塩基配列を決定してみたところ、ルストレラウイルスと一致するものを見つけた。 フォックス氏は、ピューマの脳の病変にウイルスが含まれていることを確認してもらうため、ドイツのフリードリヒ・レフラー研究所に組織サンプルを送った。すると、高度な診断検査によってルストレラウイルスの存在が確認された。 北米の野生動物でよろよろ病が見つかったことは、専門家にも予想外だった。 「ルストレラウイルスは、ヨーロッパではもっと広く分布していて、いろいろな変異体があるだろうとは思っていました。けれども別の大陸にこれほど近いものがあるとは、個人的にはまったく予想していませんでした」と、論文の最終著者で、ドイツの研究所で診断ウイルス学プログラムチームを率いる獣医学研究者のデニス・ルッベンストロース氏は言う。
野生動物への影響は?
ルストレラウイルスが北米の野生動物に大きな影響を及ぼすかどうかはまだ分からない。 コロラド州公園野生生物局は、現時点ではピューマの病気や死亡の件数が増えたという報告は受けておらず、個体識別用の首輪をつけたピューマの死亡も増えていない。同州は現在の監視プログラムを継続し、病気のピューマが見つかれば、さらなる検査を実施するとしている。 「北米の動物たちがこのウイルスに初めて出会ったのなら、免疫ができるまでにある程度の時間がかかるでしょう」と、米コーネル大学の野生動物病理学者であるエリザベス・バックルズ氏は言う。なお氏は今回の研究には参加していない。 動物たちの集団が新しい疾患にどのように反応するかは、その動物の繁殖頻度、集団で行動するかどうか、新しい生息地を求めて長距離移動するかどうかなど、さまざまな要因に影響される。 フォックス氏は、診断がつかなかった過去の症例のサンプルを保存している獣医師と協力し、イエネコの集団を遡って検査したいと考えている。そうすれば、よろよろ病がすでに北米のペットに存在しているかどうかを特定するのに役立つだろう。フォックス氏らは、この疾患が広まるしくみも解明したいと考えている。