光照射で細胞を好きな場所に接着し、免疫によるがん攻撃を観察 阪大など
光を照射して生きた細胞をひとつずつ好きな場所に瞬時・精密にくっつける技術を、大阪大学産業科学研究所の山口哲志教授(生体機能関連化学)らのグループが開発した。この技術により、免疫細胞ががん細胞を攻撃する様子をリアルタイムで観察することができた。がんなどの治療から産業まで幅広い分野で応用が期待できるという。
これまでは狭い穴に閉じ込めたり噴霧したり
抗がん剤治療後の再発を起こす理由として、がん細胞の不均一性がある。抗がん剤の治療効果ががん細胞ごとに異なるため、一部のがん細胞には薬剤耐性があり、生き残ってしまう。不均一性のある細胞集団を対象として正しく薬効などを調べるには、理想的には細胞ひとつずつを観察できる「1細胞解析」が必要となる。
1細胞解析の技術には、微細な穴(マイクロウェル)や流路に置いた構造物(マイクロ流体)で狭い空間に細胞を閉じ込める方法があるが、形状変化が見られない。電極で細胞を捕まえる方法(誘電泳動法)、1細胞ずつ噴霧する方法(インクジェットプリンター法)では、細胞が基板に接着すれば観察可能だが、血液中の白血球など浮遊細胞だと観察中に流れて視野から消えてしまう。
20年かけてスイッチング機能を実現
山口教授は2005年ごろから光を使った基板で1細胞解析ができないか模索。東京大学時代の2010年ごろには、水に溶けやすい高分子ポリエチレングリコール(PEG)と疎水性の脂質、その間に光で分解する連結分子(リンカー)を挟んだPEG脂質をガラスに塗った基板を合成(第1世代)。脂質2重層である細胞膜と脂質が相互作用してくっつく一方、光を照射した部分はリンカーが分解して外れ、細胞とくっつきにくい特性があるPEG部分が表層に出ることで細胞が離脱すると確認した。
2015年ごろからは教え子の京都大学生命科学研究科の山平真也特定講師らと、PEG脂質の脂質部分を2つに改変した。片方の脂質にリンカーを付け、光照射すると、片方の脂質が消えて残った1つの脂質によって細胞をくっつける別のPEG脂質(第2世代)となった。 2020年ごろには、PEGと脂質の間に置くリンカーを光で分解するものから、光の種類によって親水性と疎水性の性質が変化するものに変えることで、可視光照射で細胞が脱離し、紫外光照射でくっつく、スイッチング機能のあるPEG脂質(第3世代)を生み出した。