作家・小林エリカ×ソプラノ歌手・田中彩子「音楽を通して伝えたいメッセージ」[FRaU]
小林 音楽の世界ではこれまでもチャリティ公演など様々な社会貢献活動が行われていると思いますが、田中さんのご活動は、そこからさらにもう一歩深く踏み込むもののように思えます。 田中 チャリティ公演も素晴らしい取り組みですが、私にはどうしても一方通行な感じがして、何か違う形の活動ができないかなと。その思いが「ガラシャ」であり、アルゼンチン国立青少年交響楽団の招聘プロジェクトに表れているかもしれません。 小林 日本で生きる子どもたちでさえ、経済状況を含め、自分のやりたいことや可能性を追求するのは難しいと感じることがあります。困難な状況にある人ならなおさらです。でも田中さんの活動を見ていると、どんな状況にあっても道は拓ける、諦める必要はないんだと勇気をもらえます。今回来日するアルゼンチン国立青少年交響楽団の子どもたちも日本の子どもたちも、きっと何か希望を見出せる、そんなポジティブな気持ちになります。 田中 まさにそれが一番伝えたいことで、特に若い世代の人たちに、世界は広くて自由で、本気でやりたいと思えばきっとできる。もちろん貧困などの問題もありますが、自分を信じる気持ちがあれば、いくらでも道はあると背中を押したいんです。 小林 そう強く思えるには、ご自身の体験も関係しているのでしょうか。 田中 私自身、音楽一家に生まれたわけでもないですし、音楽大学すら卒業していません。歌の世界に入ったのも、3歳から続けていたピアノで挫折して、音楽の道を断たれそうになった時に、たまたま巡りあった歌の先生に特殊な声だと教えてもらって。これしかないなら仕方ないか……という感じだったんです。実家はごく普通の家庭でしたので留学中もかなり切り詰めて生活して、お金のかかるコンクールなどには応募できませんでした。そんな中で選んで受けたコンクールに出場した際にスイスの歌劇場からスカウトされてデビューできたのですが、それ以来何の後ろ盾もなく、ひたすら現場で経験を積んで今に至ります。でもだからこそ、どんな状況でも道は拓けると信じていますし、これまで支えてくれた人たちに何かの形で恩返しをしたいという気持ちを強く持っています。