作家・小林エリカ×ソプラノ歌手・田中彩子「音楽を通して伝えたいメッセージ」[FRaU]
見えづらい社会の問題をテーマに、作家の小林エリカさんがゲストと対話し、世界を変えるヒントを探るこの連載。今回は枠にはまらず、柔軟な発想で世界を変える方法を考えます。
小林エリカ 1978年、東京都生まれ。作家・漫画家。目には見えないもの、歴史、家族の記憶などから着想を得て、丹念なリサーチに基づく史実とフィクションからなる小説や漫画、インスタレーションなど表現活動を行う。約5年にわたるリサーチを経て、第二次世界大戦中の学徒動員と、その中を生きた少女たちを描いた最新小説『女の子たち風船爆弾をつくる』(文藝春秋)が発売中。
田中彩子 1984年、京都府生まれ。ソプラノ歌手。高校卒業後、単身ウィーンに渡り、本格的に声楽を学ぶ。22歳でスイス・ベルン州立歌劇場でソリストデビュー。「天使の歌声」として注目を集める。2019年、Newsweek誌の「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。アルゼンチン国立青少年交響楽団による公演は東京会場は8月30・31日、京都会場は9月2日に開催予定。
自分を信じる力が道を拓く。 音楽を通じて伝えるエール
ウィーンを拠点に活動するソプラノ歌手、田中彩子さん。高音域を巧みに操るハイ・コロラトゥーラという稀有な声種は「天使の歌声」と称され、世界を舞台に活躍している。小林エリカさんもその歌声に魅了されたひとりだが、同時に感銘を受けたのが、田中さんが行う社会活動。困難な状況にある人々に音楽を通して「人生には可能性がきっとある」というメッセージを伝える取り組みだ。 小林 今日はお忙しい日本公演の合間を縫ってお時間をいただき、感謝します。 田中 『FRaU』のSDGs特集はいつも手にとっていたので、とても光栄です。 小林 今回、この連載で田中さんとぜひお話ししたいと思ったのは、2020年に京都で上演されたモノオペラ「ガラシャ」を知ったことが大きいんです。オペラと聞くと立派な劇場で上演されるイメージですが、モノオペラはとても少人数で、舞台装置も一枚の布を垂らすことで完成する。京都の上賀茂神社で上演された際には、舞台が屋外でしたよね。まさかそんなことができるなんて! とすごく驚きました。 田中 劇場がない国やオペラを聴く機会を得られない人にもその魅力を届けたいというのが一番の願いでした。舞台装置や楽器も極力シンプルにすることでチケット料金を抑えられますし、どんな場所でも公演できるのがモノオペラの魅力なんです。 小林 しかも田中さん自ら総合プロデュースを担当されて、作曲家や演奏者、舞台監督、美術スタッフなど、ご自身で探してオファーしたと伺って、さらに仰天しました。 田中 本当に体当たりのプロジェクトでした(笑)。でも、その経験があったからこそ、今度はまた違った企画をやってみようって、自信につながりました。 小林 その企画がこの夏、東京と京都で開催されるアルゼンチン国立青少年交響楽団を招いた公演ですね。 田中 アルゼンチン国立青少年交響楽団はブエノスアイレスにある26歳以下の楽団で、貧民街出身の子も裕福な家の子も分け隔てなく切磋琢磨し、プロの音楽家を目指す集団です。今回は彼らを日本に招聘して、日本の中高生たちと交流の機会を持ちつつ、演奏会を開きます。東京公演では3歳から参加可能な1時間コンサートを設けたり、サッカースタジアムが会場の京都公演では京都の小中高生と特別支援学校の子どもたちを招待したりする予定です。